法人著作の意義

 

▶昭和52年03月30日東京地方裁判所[昭和49(ワ)2939]▶昭和57年4月22日東京高等裁判所[昭和52(ネ)827]

[控訴審]

四 被控訴人が本件著作物の著作者ではなく、その著作権の帰属者ではない旨の主張について

現行著作権法第15条は、「法人その他使用者(以下、この条において『法人等』という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定しているが、旧著作権法においては、第6条で、官公衙学校社寺協会会社その他の団体がその著作名義をもつて公表した著作物の著作権の存続期間を規定していたに止まる。しかしながら、旧著作権法下にあつても、第6条の如き規定の存在していたことからみて、団体が原始的な著作権者となりうる場合のあることを予定していたものと解することが十分可能であり、旧著作権法の下にあつても、現行著作権法第15条が規定する如く、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者において職務上作成する著作物で、その法人等がその著作名義のもとに公表するものと認められるものについては、その著作物の著作者は別段の定めがない限り、その法人等であつて、その法人等が原始的に著作権を取得するものと解するのが相当である。

法人その他の団体が著作を行ないうるかについては、法人の本質に関する理解認識及び著作権法についての立法政策等に関連して問題のあることは控訴人主張のとおりであるが、前叙の如く、現行著作権法第15条が規定するような条件のもとで作成される著作物は、通常その法人等における比較的多数の職員が著作活動に参加し、このような職員の職務上の共同作業によつて完成されることになろうが、かかる著作物にあつては、各職員の寄与態様も判然とさせえない一体の著作物であることが多く、寄与者の具体的意図に徴しても、このような著作物については、その法人等がその著作者となり、原始的にその著作権を取得するものと解するのが相当である。けだし、前叙の如き法人等に進んで従属する各職員の著作活動の態様を直視し、かつ、各職員の通常の意思を考えると、「創作者」を多数のかつ関与の態様の多様な自然人と理解するよりは、端的に法人等を著作者とし、これに著作権の原始的取得を認める方が創作活動の実態にも十分適合するものと考えられるからである。これを本件著作物についてみるに、本件著作物は、大蔵大臣及び外務大臣の管理下に設置された国家機関たる在外財産調査会が発意し、同調査会によつて任命された常勤で、所定の給与の支給を受ける職員が職務上の分担作業として各地域部会において、統一的な構想のもとに報告書草案を執筆作成し、これらを総務部会において一個の報告書に編さんして完成させたものであり、これにつき各職員個人を著作権者とする旨の別段の約定も認められない本件においては、本件著作物の著作権は、在外財産調査会の事務の帰属主体である被控訴人において原始的に取得したものと解するのが相当である。

この点、控訴人は、各地域部会においてその分担部分の調査執筆に従事した者は同調査会の職員とはいえないし、また、その執筆が、職務上されたものではない旨主張するが、原判決が理由二1(四)において認定した各事実に徴すると、各執筆者は、在外財産調査会の監督のもとにおいて、職務上の義務として、本件著作物のもとになつた報告書草案を共同して起筆し、これらが各地域部会で纒められた後、これらの提出を受けた総務部会において一体の著作物として編さんし、本件著作物が完成されたものであることが明らかである。また、その後昭和24年以降に、大蔵省管理局名義のもとに、これが部内配布資料として印刷複製され刊行された事実及び証人Aの証言に徴しても、本件著作物が公表されるときには、在外財産調査会もしくはその上部機関名義をもつて公表すべきものと認識されていたものと認められ、個々の執筆者名義をもつて公表することは予想もされていなかつたことが窺われる。

したがつて、控訴人の主張する如く、本件著作物がいわゆる嘱託著作の範疇に属するものとみることはできず、この点の控訴人の主張は肯認しえない。

そうすると、本件著作物の著作権は、昭和22年12月頃在外財産調査会の総務部会における編さん作業の完了によつて、同調査会の行為の効果の帰属主体である被控訴人に原始的に発生帰属したことは明らかであるというべきである。

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