野球大会の応援風景を撮影した写真の著作物性と侵害性を認定した事例

 

平成30年4月26日東京地方裁判所[平成29(ワ)29099]

1 争点(1)(本件写真の著作物性)について

本件写真は,画像の上半分に野球場のフェンス,その土台及びフェンス越しのグラウンド,下半分にスタンドが写っていて,フェンス側及びスタンド側で画面が斜め(右斜め下方向)に分けられているカラー写真である。スタンドとフェンスの間には,スタンドに向いて起立し,背中を大きくそらし,両手を上方に広げ,口を大きく開けて応援団を統率している学生服姿の女子生徒が写っており,その女子生徒の左側にスタンドの観客席で起立してメガホンを持つなどする学生服姿やユニホーム姿の数名の男子生徒が写っていて,また,女子生徒の右側下部分には試合を観戦する観客数名の後頭部が写っている。

本件写真は,撮影者であるAが,平成17年5月16日,埼玉県営大宮公園野球場で開催された関東地区春季高等学校野球大会における群馬県立桐生高等学校応援団による応援風景を,被写体,シャッターチャンス,撮影方向(アングル),撮影角度を変え,全体の構図を考えながら,デジタルカメラで何枚も撮影したうちの1枚であり,野球場のグラウンド部分と三塁側スタンド部分で画面を斜め(右斜め下方向)に分け,中央に女子生徒を配し,同女が応援団を統率する光景を,スタンド上方斜め右(本塁寄り)から俯瞰する角度で,女子生徒が両手を上方に高く広げる構図を狙って撮影したものである。

このように,本件写真の撮影者であるAは,本件写真の撮影に当たり,被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等に工夫を加えて撮影しており,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているから,本件写真は写真の著作物として著作物性が認められる。

これに対し,被告は,本件写真には著作物性が認められないと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件写真は被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等において,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているものであり,被告の主張を採用することはできない。

2 争点(2)(本件写真に係る著作権の侵害の有無)について

(1)本件画像は,別紙書籍目録の使用頁欄記載の各頁の下部分において,歌詞等の背景として,1頁の3分の1程度の大きさで掲載された,やや不鮮明なモノクロ画像であり,右斜め下方向にフェンスとその土台が伸びているのが写り,上記フェンスの前に,起立し,背中を大きくそらして,両手を上方に広げ,口を大きく開けて応援団を統率している学生服姿の女子生徒が写っており,女子生徒の左側には学生服姿やユニホーム姿の男子生徒が3名写っていて,これらの女子生徒や男子生徒を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた画像である。

(2)本件画像は,被告担当者が本件写真を加工して制作したものである。

上記1のとおりの本件写真と本件画像を対比すると,本件画像は,本件写真のうち,応援団を統率する女子生徒と起立して応援する生徒等が写っている左部分及び中央部分を使用し(本件写真の約半分程度),グラウンドや観客数名の後頭部等が写っている部分を除いて,モノクロ画像にするなどの加工を経たものであると認められる。

本件画像は,本件写真に写っていたグラウンドや一部の観客の後頭部等が写っていないほか,加工を経たことによって,モノクロ画像となり,また,本件写真と比べると,女子生徒や応援する男子生徒らの表情等がやや不鮮明なものとなっている。しかし,上記(1)のとおり,本件画像は,フェンスとその土台で 画面を右斜め下方向に分け,フェンスの前に応援団を統率している学生服姿の女子生徒を配し,女子生徒の左側に学生服姿やユニホーム姿の男子生徒を配して,女子生徒が起立して背中を大きくそらし,両手を上方に広げ,口を大きく開けた瞬間を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた画像であるところ,これらは,上記1に照らし,本件写真における創作的な部分であり,本質的特徴といえる部分で,本件画像は本件写真におけるこの創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したといえる。

したがって,本件画像は,本件写真に依拠し,本件写真の創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したものであって,本件写真を複製したものであると認められる。

(3)これに対し,被告は,本件写真は,多色カラートーンであり,鮮明に映された女子生徒の表情や姿勢等から,その高い統率能力が印象づけられる点に本質的特徴があるのに対し,本件画像では,本件写真の本質的特徴は排除されていると主張する。しかしながら,上記のとおり,本件画像において本件写真の創作的な部分が本件書籍に掲載(再製)されているといえるから,被告の主張を採用することはできない。

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