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ビデオゲーム「パックマン」の著作物性を認定した事例

 

▶平成6年01月31日東京地方裁判所[平成4(ワ)19495]

一 争点(一)(映画の著作物性)について

1 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい(著作権法2条1項1号。以下単に「法」ともいう。)、また、映画の著作物には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものである(法2条3項)。

右のような著作権法の規定によれば、映画の著作物と認められるためには、次の三つの要件を充足する必要があり、かつ、その要件を充足しているものであれば、本来的な意味における映画以外のものも映画の著作物として保護されているものと解すべきである。

(一) 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)

(二) 物に固定されていること(存在形式の要件)

(三) 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること(内容の要件)

2 本件ビデオゲームが右の要件を充足する映画の著作物に該当するかどうかについて判断する。

(一) 表現方法の要件について

表現方法の要件としては、前記法2条3項の規定によれば、聴覚的効果は任意的要件であり、「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されている」ことが必要的要件であるが、映画の著作物の「上映」とは「映写幕その他の物に映写することをいう」(法2条1項19号[注:17号])と規定されていることも考え合わせると、右の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているものとは、スクリーン、ブラウン管、液晶画面その他のディスプレイに影像が映写され、かつその影像が連続的な動きをもって見えるものをいうと解すべきである。

そして、本来的意味における映画は、映画フィルムに固定された多数の影像をスクリーン上に非常に短い間隔で引き続いて連続的に投影する方法により、人間の視覚における残像を利用して、影像が切れ目なく変化しているように見せかけることによって、影像が連続的な動きをもって見える効果を生じさせるものであるから、本来的な意味における映画以外のものでも、影像を非常に短い間隔で連続的にディスプレイ上に投影する方法により右の効果を生じさせるものであれば、右の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせるものということができる。

本件ビデオゲームは、前記のとおり、影像をディスプレイ上に映し出し、極めて短い間隔でフレームを入れ替えることによってその影像が連続的に変化しているように見せる方法で表現されているものであるから、映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているものに該当する。

(二) 存在形式の要件について

前記(一)の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているものは、物に固定されている必要があるが、「物」は、映画フィルムに限定されているわけではなく、また、固定の方法も映画フィルム上に可視的な写真として固定されている必要はなく、ROM、フロッピーディスク、ハードディスク等に電気的信号で取り出せる形で収納されているものも含まれると解すべきである。

本件ビデオゲームは、前記のとおり、ROM中に電気信号の形で記憶されている命令群であるプログラムの命令が、CPUにより読み取られ、この命令により、同様にROMに記憶されているデータ群であるプログラムの中から抽出された各影像データがディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることにより、全体として連続した影像となって表現されるものであり、ディスプレイ上に映し出される絵柄、文字などの影像は、二進数の電気信号を発生できる形でROMに記憶されており、ディスプレイ上にはROM中に記憶されているもの以外の絵柄、文字などが現れることはないものであるから、物に固定されているとの要件を充足するものである。

なお、本件ビデオゲームは、前記のとおり、そのゲーム中に、プレイヤーのレバー操作によって与えられる電気信号により命令が変化させられて、これによりプログラム中から抽出されるべき命令及び抽出されるデータの位置、順序に変化が加えられるため、ディスプレイ上に映し出される影像もプレイヤーのレバー操作により変化するが、いかなるレバー操作によりいかなる影像の変化が生じるかもすべてプログラムにより設定されているものであるから、物に固定されているとの要件を満たすものであることに変りはない。

(三) 内容の要件について

「思想又は感情を創作的に表現したもの」とは、単なるデータそのものを表現したようなものを除いた、人間の精神的活動全般による所産を著作者の個性が何らかの形で現れるように表現されているものを指すものである。また、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」も、文芸、学術、美術又は音楽が厳格に区分けして用いられているわけではなく、人間の知的、文化的活動全般を指すものであると解すべきである。

本件ビデオゲームは、前記の内容のとおり、それぞれ個性的な色彩、行動、状況に応じた強弱関係のあるパックマンと四匹のモンスターとが、画面に表示された迷路を舞台として繰りひろげるスリリングな追跡劇であり、著作者の知的精神的創作活動の所産が具体的に表現されているものであるから、内容の要件をも充足するものである。

(四) 以上によれば、本件ビデオゲームは、映画の著作物であると認められる。

 

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