グラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムの創作性(二次的著作物性)を認定した事例

 

▶平成19年07月26日大阪地方裁判所[平成16(ワ)11546]

3 G1X MS-DOS版の創作性の有無

(1) 前記前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(争いのない事実及び前記2で認定した事実も含む)。

(略)

(2) G1X MS-DOS版の創作性の有無

以上のとおり,グラブ浚渫施工管理システムは,船体位置決めの機能を担う部分についても,それ以前の位置決めシステムと比較して,処理内容が,重機に備え付けられたセンサーからのデータ(旋回角計,ジブ角計,深度計)等を計測し,これらのデータとあらかじめ入力された船体の寸法データに基づいて演算処理をして,船体の位置情報及びグラブバケットの位置情報を計算する方法と光波計による方法とを一体化して全体として船体位置決めをするというように相当複雑になっており,各プログラムの画面においても共通性が乏しい。

これに加えて,G1X MS-DOS版が位置決めプログラムに用いられていたN88BASICやQuickBASICとは言語体系が全く異なるC言語で記載されていることからすれば,G1X MS-DOS版は,プログラムの表現方法に選択の幅が十分にあるうちから作成者が選択したものであって,作成者の個性が表れているものと認められる。

また,新規追加された堀跡管理機能も,GDX等の浚渫管理メニュー画面をみると,「工区メッシュ設定」「潮位設定」「浚渫作業」「工区座標の設定」「仕掛りデータの編集」「出来高データの編集」等といった項目があり,新規追加された堀跡管理機能の処理部分の内容の複雑さ及びそれらの処理に必要と推測されるプログラムの量からすれば,そのプログラムの表現方法には選択の幅が十分にあり,その中から作成者が選択した表現であって,作成者の個性が表れているものと認められる。

なお,G1X MS-DOS版は,平成2年のGDX等の作成以降,モジュール数が増加し,機能も追加されているが,これらの各プログラムはいずれもG1X MS-DOS版の他のバージョンからの複製又は翻案にすぎないものと認められる。

以上より,G1X MS-DOS版(GDX 等から G1Xver2.00 まで)は,位置決めプログラムと同一の著作物ではなく,少なくとも,位置決めプログラムを原著作物とする二次的著作物であるということができる。

なお,G1Xver1.20ないし G1Xver2.00は,RTM のもとで作動するものであり,RTM は,Aに著作権が帰属する著作物であるが,それ自体はOSであって,G1Xver1.20等とは別個の著作物であることはいうまでもない。

(略)

5 本件プログラムの創作性の有無について

(1) OS及び言語の変更

ア 原告は,本件プログラムは,G1X MS-DOS版とは,OSがMS-DOSとWindowsとで異なり,プログラム言語もC言語とVisualC++とで異なるので,創作性が認められると主張する。

イ 確かに,言語の著作物の場合,著作物を言語体系の異なる他の国語で表現して「翻訳」したのものは「二次的著作物」であるとされている(著作権法2条1項11号)。

しかしながら,前述のとおり,プログラムの表現は,所定のプログラム言語,規約及び解法による制約がある上に,その個性を表現できる範囲は,コンピュータに対する指令の表現方法,その指令の表現の組合せ及び表現順序というように,制約の多いものである。したがって,あるプログラムの著作物について,OSやプログラム言語を異なるものに変換したからといって,直ちに創作性があるということはできず,OSや言語を変換することにより,新たな創作性が付加されたか否かを判断すべきである。

ウ 本件では,原告は,OS及び言語を変更したことによって,どのような創作性が付加されたかについて具体的に主張立証していない。本件プログラムのソースプログラムの文字数は,G1X MS-DOS版の5倍以上に増加しているが,その多くは,言語を変更したことによるというよりは,主として新たな機能を追加したことによるものである可能性もある。このことに加えて,VisualC++はC言語に対して基本的には上位互換性を有する(C言語のモジュールをコピーして使用することもできる)と認められること,G1Xver5.50のソースプログラムの一部(モジュール)である「G1xLan.cpp」,「g1x.h」に平成9年5月のGによるコメントの追加があるように,平成9年以前すなわち G1X MS-DOS版の記述がそのまま用いられている部分があることに照らせば,本件プログラムが,MS-DOS・C言語から Windows・VisualC++へとOS及びプログラム言語を変更させたことのみによって,創作性があるものとまで認めることはできない。

(2) 追加機能 3)のRTMに相当する部分の関数について

ア 証拠等(各事実の末尾に記載)によると次の事実が認められる。

(略)

イ 以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおいて,G1X MS-DOS版ではRTMがその機能を担っていたマンマシン・インターフェースを担う部分については,同部分がなければ本件プログラム自体がまったく機能しないというものではないが,同部分があることによりプログラムの処理が円滑に行われるというものであって,同部分を設けるか,設けるとした場合に同部分をどのようなプログラムとするのか,その場合の関数の使用の有無・内容,プログラムの量等について,様々な選択肢があり,プログラマーの個性を発揮することが可能であるところ,本件プログラムにおいては,Aは,記憶させるデータのタイプを13分類して,そのタイプを指定することにより,画面からの入出力が共通のルーチンとして使用するという,「******」から始まる列を13列並べるという独特の表現をしており,同部分については,Aの工夫が凝らされていてその個性が認められるから,著作物性を有する。

ウ 被告は,原告の主張する関数は,RTMを用いる前から用いられていたもので,Windowsに対応するように記述したからといって創作性が生じるものではないと主張する。

具体的には,平成4年に作成されたグラブ浚渫施工管理システムのプログラム GDT(RTMが用いられる前のもの)に「********」という関数が用いられているが,G1Xver3.00の「G1xship.h」には「**********************」という関数が用いられ,両者は同じ思想によるものである,G1Xver3.00の「G1x.cpp」には「*****************」「********************」の関数が用いられているが,これはRTMを用いる前から用いられていたと主張する。

しかしながら,例えば,G1X ver2.00の「G1X」というモジュールには,上記の「******」が13列並んでいる部分と同様の表現はなく,その他にも同表現が,本件前プログラムに存在したと認めるに足りる証拠はない。したがって,「******」が13列並んでいる部分の表現は,本件前プログラムにはなかった新しい部分であるし,単にWindowsに対応するように機械的に記述したにすぎないと認めるに足りる証拠はないから,被告の主張は理由がない。

(3) 新可能処理②の鳥瞰図表示について

ア 証拠等によると次の事実が認められる。

(略)

イ 以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおける鳥瞰図の表示は,Ⅰ)ソナー装置がある場合はソナー装置により計測した水底の起伏状況についての位置(座標),深度の3次元データ,グラブバケットの位置・深度データを収集し,Ⅱ)ソナー装置を用いない場合は,位置決めシステムによる位置情報,手動で計測した深度情報,バケットの1堀の範囲等から計算したデータ等を集積して,ソナー装置の計測によるデータに例えて1メートルピッチの密度による深度データを計算し,位置・深度の3次元データを収集し,Ⅲ)収集した3次元データを2次元平面に投射する処理をし,Ⅳ)これを特定のデザイン,大きさ,縮尺,色彩を持った画像に置き換える処理をするという手順を踏むものであることが認められる。

そして,上記のいくつかの段階を踏む処理について,「G1xChokan.cpp」は1万3113バイトの容量(「resource」を除いたモジュールの合計容量の約4パーセントで,30あるモジュールのうち5番目に大きい容量)を用いて記述されていることからすれば,その処理に至る手順,方法に関する表現について選択の余地があり,また,デザイン,大きさ,縮尺,色彩に様々な選択肢がある以上,これを表示するための演算処理等の記述についても,様々な表現が選択可能であり,「G1xChokan.h」及び「G1xChokan.cpp」は,それら中から特定の表現を選択したものと認められる。

したがって,本件プログラムにおいては,その記述ないし表現についてAの個性が現われていると認められるから,本件プログラムの鳥瞰図表示の部分は著作物性を有するものというべきである。

ウ 被告は,鳥瞰図の画面表示は極めてありふれており,視点を移動できる点も,平行移動,回転に行列計算が用いられているが,数学上当然のものであり,プログラムとしては目新しいものではない,陰線処理はZバッファ法というありふれた方法が用いられているとして,創作性を否定する。

しかし,被告がありふれていると指摘するのは,プログラムの表現それ自体ではなく,画面表示や,陰線処理の方法についてのものにすぎない上に,当時,本件プログラムで表される画面表示や陰線処理の方法がありふれていたものであるとの立証はない。また,同部分の処理及びその他の部分の処理をするプログラムの表現について,G1xChokan.cppを前提としても,具体的にどの表現がどうありふれているかについての具体的な指摘や主張立証はない。

被告は,視点を移動できる点についても,行列計算が用いられているのは数学上当然であると主張するが,G1xChokan.cppを前提として本件プログラムで用いられている行列計算等の表現それ自体がありふれていることについての指摘,主張立証はない。

(4) まとめ

本件プログラムにおいては,OSとプログラム言語の変更による創作性の立証があるとはいえないものの,少なくとも,RTMに相当する部分の関数と鳥瞰図表示の部分のプログラムについては,その表現に作成者Aの個性が現れており,著作物性があるものと認められる。よって,本件プログラムは,少なくとも G1X MS-DOS版の二次的著作物として,少なくとも上記の著作物性が認められる範囲で,著作物として保護される。

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