折り紙作品の折り図の侵害性を否定した事例

 

▶ 平成23年05月20日東京地方裁判所[平成22(ワ)18968]▶平成23年12月26日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10038]

[控訴審]

1 当裁判所は,原告の請求にはいずれも理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり,当審における当事者の補足的主張に対する判断を付加するほかは,原判決…のとおりであるから,これを引用する(なお,以下では,原審の判示と重複して記載した部分がある。)。

2 当審における当事者の補足的主張に対する判断

(1) 争点1(著作権侵害の有無)について

ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,②各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。

しかし,他方で,本件折り図は,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字で示した上で,折り工程の大部分について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。

このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。

以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。

以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。

イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。

しかし,原告の主張は,主張自体失当である。

すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。

上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法,②いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。

したがって,被告が,被告折り図を作成することによって本件折り図を複製ないし翻案した旨の原告の主張は採用できない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/