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体験型装置(舞台装置・展示構造物)の著作物性を否定した事例

 

▶平成23年8月19日東京地方裁判所[平成22(ワ)5114]▶平成24年02月22日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10053等]

(注) 著作物性の認定において、原審と控訴審とで判断が割れた事案である。

 

[控訴審]

以上を前提に,控訴人装置の著作物性について検討する。

ア 創作性について

(ア) 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,当該作品等は著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。

(イ) 控訴人装置は,前記のとおり,当初は舞台装置として使用されていたが,科学館や美術館等で美術作品として展示されたり,体験型装置として使用されているものである。控訴人装置が体験型装置として使用された場合,人が中に入り,布の反力によって体が支えられる状態を体験することができるものであるから,人が中に入った状態では,様々な形態をとるし,また,中に入った人は日常生活では感じることのできない感覚を味わうことができる。このように,控訴人装置は,体験型装置としても用いられるが,控訴人が本件訴訟において著作物として主張するのは,上記のような動的な利用状況における創作性ではなく,原判決別紙反訴原告装置目録に示された静的な形状,構成における創作性である。

(ウ) 控訴人は,そのような控訴人装置の創作性として,①「閉じた空間・やわらかい空間」であること,②「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること,③「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること(控訴人装置の上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有すること)を主張する。

もっとも,控訴人装置は,体験型装置として用いられており,控訴人も,争点(4)において,不正競争防止法2条1項3号の「商品」に該当すると主張するものであって,実用に供され,又は産業上利用されることを目的とする応用美術に属するものというべきであるから,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美的特性を備えている場合に限り,著作物性を認めることができるものと解すべきである。

そこで,以下,上記観点をふまえ,控訴人主張に係る①ないし③の各要素に基づき,控訴人装置の創作性について検討する。

イ ①「閉じた空間・やわらかい空間」であることについて

(ア) 「閉じた空間」とは,控訴人装置が使用されている際の人によって広げられていない部分の空間の性質を示すものであり,使用時において中に入った人によって開かれていくという構想は,控訴人が控訴人装置で実現しようとした,控訴人装置によって構成された空間の性質に関する思想ないしアイデアである。著作物としての表現は,そのような思想ないしアイデアそのものではなく,それらが具体的に表現された控訴人装置の形状,構成に即して把握すべきものであるから,「閉じた空間」という空間の性質を創作性の根拠とする控訴人の主張は採用することができない。

また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,2枚の布を合わせることにより「閉じた空間」としたことに創作性があるとも主張する。

しかしながら,この2枚の布を合わせたという平面的な構成は特徴のある表現ということはできず,創作性を認めることはできない。

(イ) 「やわらかい空間」とは,控訴人装置の中に人が入った使用状態において,中に入った人が周囲の空間が固定的ではなく,自在に変形するものと感じられる空間であるという思想ないしアイデアであり,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。

また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,伸縮性・弾力性のある布を使用し,ロープを使用して床からの高さを50センチメートルないし1メートルとして,空間に浮遊させて設置することにより,「やわらかい空間」としたことに創作性があるとも主張する。しかし,そのうち,「やわらかい空間」自体は思想又はアイデアにすぎないことは前記のとおりであり,また,伸縮性・弾力性のある布を使用していることは,実際に控訴人装置が使用される際に機能を発揮する構成にすぎない。

したがって,いずれも,控訴人装置の創作性を基礎付けるものということはできない。

ウ ②「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であることについて

(ア) 「浮遊を可能にする空間」であることは,控訴人が本件において著作物であると主張する控訴人装置そのものに表現されたものではなく,控訴人装置の中に人が入って使用された際,中に入った人が浮遊していると感じる状態になること意味するものであり,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。

したがって,当該要素は,控訴人装置自体に表現されたものではないから,これを控訴人装置の創作性の根拠とする控訴人の主張は採用することはできない。

また,控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,左右と下からの強い反力を持たせて「浮遊を可能にする空間」とし,これによって「新しいバランス」を与え,「全身的な身体感覚の回復」を図るものであり,バランスの取り方次第で浮遊可能となるように布の張りを調整しているとも主張する。

しかしながら,浮遊を可能とすることや,新しいバランスを与えること,全身的な身体感覚の回復を図ることは,いずれも控訴人装置の使用時における機能であって,控訴人装置に表現されたものとはいえない。また,布の張り方自体は布の形状を形成し,その機能を発揮させるための方法にすぎず,このような点に創作性を認めることはできない。

(イ) 「宙吊り」は,控訴人装置の空間における配置を示すものであるが,それ自体では控訴人装置が空間に存在するという抽象的な観念を示すものにすぎず,具体的な表現を示すものとはいえないから,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。

また,控訴人装置を宙吊りにしたことは,装置の機能を発揮させるための構成であるともいうことができる。いずれにせよ,創作的表現と認めることはできない。

エ ③「日本的美しさをもつ空間」であることについて

(ア) 「日本的美しさをもつ空間」であるということそれ自体は,控訴人の思想又はアイデアを示すものであって,ここに創作性の根拠を認めることはできない。

また,控訴人は,ロープの「ずらし方」に創作性があると主張するが,それは,本体部分の布の形状を形成するための方法にすぎず,表現と認めることはできないし,張られたロープ自体の形状に創作性を認めることもできない。

(イ) 控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有することについて,創作性の根拠として主張する。

原判決別紙反訴原告装置目録の写真によると,控訴人装置の上辺部分は確かに「く」の字に似た反った曲線を有しているものである。

しかしながら,布状のチューブを宙吊りにする場合,本体部分の端部において支持具とロープとで固定することは格別珍しいものではない。その際,固定用のロープの角度や緊縮度によっては,チューブ部分に「たわみ」や「反り」が生じることはむしろ通常のことであると認められる。もちろん,ロープの角度や緊縮度を調整することにより,「たわみ」や「反り」の形状をも調整することが可能であったとしても,それにより生じるチューブ部分の上辺部分の形状について,制作者の個性が表現されたものとはいえないから,これをもって創作的な表現であるということはできない。

控訴人装置における上辺部分の「反り」についても,それが直ちに「神社の屋根や日本刀」のような美観を想起させるものということはできないし,仮に,そのように観察し得る余地があったとしても,創作的な表現とまでいえないことは,同様である。

(ウ) 控訴人は,控訴人装置は,「空間の生け花」と称され,日本的な独特な表現であるとして評価されており,控訴人装置の見た目の美しさ,控訴人装置内に入った際に体験者が感じる擬似的無重力環境という異次元空間の感覚が控訴人装置の最大の特徴であり,このような独特な空間構成力によって,控訴人装置は,国内外のどこにもない空間として成立しているなどと主張する。

しかしながら,体験者が控訴人装置内に入った際に感じる感覚については,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。

また,著作権法によって保護すべき「著作物」であるか否かは,あくまで創作性の有無によって判断すべきであって,控訴人装置に対する評価が控訴人の主張するようなものであったとしても,前記判断が左右されるものではない。

なお,控訴人は,前記①及び②の要素こそ,「独立の創作性」の名に相応しいものであり,上記③の要素はこれらの結果として成立しているものであって,③の要素のみで単独では成立しないとも主張している。

したがって,控訴人の当該主張を前提とすると,前記のとおり,①及び②の各要素に基づいて創作性を認めることができない以上,当然に③の要素についても認められないということになる。

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