木目化粧紙(原画)の著作物性を否定した事例

 

▶平成2年7月20日東京地方裁判所[昭和60(ワ)1527]▶平成3年12月17日東京高等裁判所[平成2(ネ)2733]

[控訴審]

著作権法は、第2条第1項第1号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定した上、同条第2項において「この法律にいう美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。右第2項の規定は、いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美の表現)の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって、極少量製作される美術工芸品を著作権法による保護の対象とする趣旨を明らかにしたものである。著作権法は、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、それが著作権法による保護の対象となるか否かを何ら明らかにしていないが、応用美術のうち、例えば実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものは、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に同一のものを多量に生産することができる意匠として意匠法によって保護されるべきであると考えられる。けだし、意匠法はこのような意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(同法第1条)ものであり、前記の品の形状、模様、色彩又はそれらの結合は正に同法にいう意匠(同法第2条)として意匠権の対象となるのに適しているからである。もっとも、実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、例えば著名な画家によって製作されたもののように、高度の芸術性(すなわち、思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできるであろう。

この点に関連して、控訴人は、木目化粧紙は実用的機能は求められておらず、専ら高級感のある美感を与えることを企図して製作されるのであり、同一天然木目材料を使用してもデザイナーの個性によって全く異なる原画が製作されるから、原判決が実用品特有の制約があることを理由に本件原画の著作物性を否定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、本件原画の製作過程は原判決…記載のとおりであって、これらの工程には、実用品の模様として用いられることのみを目的とする図案(デザイン)の創作のために工業上普通に行われている工程との間に何ら本質的な差異を見いだすことができず、その結果として得られた本件原画の模様は、まさしく工業上利用することができる、物品に付せられた模様というべきものである。そして、(証拠)を子細に検討しても、本件原画に見られる天然木部分のパターンの組合わせに、通常の工業上の図案(デザイン)とは質的に異なった高度の芸術性を感得し、純粋美術としての性質を肯認する者は極めて稀であろうと考えざるを得ず、これをもって社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない。したがって、本件原画に著作物性を肯認することは、著作権法の予定していないところというべきである。

以上のとおりであるから、本件原画は著作物性を有するという控訴人の主張は採用できない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/