契約解除による翻案権の復帰(解除の遡及効)を否定した事例

 

▶平成18年08月31日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10070]

5 争点4(本件解除による本件プログラムの翻案権の復帰)について

(1) 控訴人は,本件解除により,本件プログラムの翻案権は控訴人に復帰した旨主張するとともに,継続的契約関係においては,契約の性質,内容,当事者の意思を考慮してある程度の修正がされるが,本件における事情を考慮すると,F3契約等が解除された効果として,遡及効を否定して現状を維持させるべき要請はほとんどないなどとして,本件解除には遡及効がある旨主張する。

(2) そこで,本件解除の解除原因が存在し,解除の意思表示が有効であるかはさておき,仮に,これらが肯定されるとしても,控訴人主張のように本件解除に遡及効があるか否かについて,まず,検討する。

(略)

そうすると,本件プログラムをめぐる契約関係において,基本的には,控訴人による本件プログラムの開発期間中は,控訴人は,合意されたところに基づき,順次,プログラムを開発して,これを被控訴人に納入する義務を負うのに対し,被控訴人は,開発に応じて,合意された開発費の支払義務を負い,順次,納入されるプログラムの著作権等の権利を取得するという継続的な関係が存在し,プログラムの納入後は,控訴人には,製品の競争力維持のために特別な協力を行う義務が存在し,被控訴人には,「歩合開発費」の支払義務が存在するという継続的な関係があることが認められる。

上記継続的な関係においては,被控訴人が,順次,納入されたプログラムの権利を取得するものであるところ,その権利を基礎として,新たな法律関係が発生するものであるし,開発の受託者である控訴人も,委託者である被控訴人から指示されて被控訴人のために開発を行い,被控訴人に納入したプログラムについて,控訴人と被控訴人間の契約関係解消の場合,その開発作業の対価として受け取った金員の返還を想定しているとは考えられず,契約の性質及び当事者の合理的意思からも,本件における継続的な関係の解消は将来に向かってのみ効力を有すると解するのが相当である。(中略)

そうすると,控訴人による本件解除は,仮に,解除原因が存在し,解除の意思表示が有効であるとしても,遡及効はなく,将来に向かって効力を生じるものであると解されるのであって,そうとすれば,控訴人は,将来の競争力維持のための協力義務を免れるものの,本件解除によって,従前の法律関係を解消されるものではなく,被控訴人に帰属した権利が,控訴人に復帰するものではないと解するのが相当である。

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