ゲームソフトの著作物性(「バイオハザード2」などの著作物性を認定した事例) | 著作権コンサルタントが伝えたいこと

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ゲームソフトの著作物性(「バイオハザード2」などの著作物性を認定した事例)

 

平成11年10月07日大阪地方裁判所[平成10(ワ)6979]

一 争点1について

1 著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2条1項1号)と定義するとともに、「映画の著作物」を著作物の例示として挙げている(10条1項7号)。「映画の著作物」について、著作権法には、著作者の範囲(16条)、著作権の帰属(29条)及び著作権の保護期間(54条)に関する特則が置かれているほか、その利用に関する権利として、他の著作物一般には認められていない上映権及び頒布権(26条)を著作権者が専有する旨の規定が置かれている。また、著作権法は、「映画」の概念の定義については、明示的な規定は置いていないが、「映画の著作物」には、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」としている(2条3項)。右のとおり、著作権法上の「映画の著作物」には、劇場用映画のような本来的な意味の映画以外のものも含まれるが、著作権法の規定に照らすと、映画の著作物として著作権法上の保護を受けるためには、次の要件を満たす必要があると解される。

(一) 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)

(二) 物に固定されていること(存在形式の要件)

(三) 著作物であること(内容の要件)

被告らは、本件各ゲームソフトが映画の著作物であることを争うが、主として右要件のうちの(一)と(二)を争うものである。

2 「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」について

(一) 前記のとおり、著作権法は「映画」を所与の概念とし、その定義規定を置いていないところ、映画の一般的な意味(例えば、岩波書店「広辞苑」第五版では「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画を、映写機で急速に(一秒間一五こま以上、普通は二四こま)順次投影し、眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの」としている。)や、本来的な意味の映画であることが明らかな劇場用映画の表現方法のほか、著作権法が映画の著作物の「上映」について、「著作物を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。」と定義していること(2条1項18号[注:17号])を考え併せると、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ているとは、右に述べた「映画」と同様の視覚的又は視聴覚的効果を生じさせるもの、すなわち、多数の静止画像を映写幕、ブラウン管、液晶画面その他の物に急速に連続して順次投影して、眼の残像現象を利用して、「映画」と類似した、動きのある影像として見せるという視覚的効果、又は右に加えて影像に音声をシンクロナイズさせるという視聴覚的効果をもって表現されている表現物をいうものと解するのが相当である。

(二) 被告らは、映画の著作物に該当するためには、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」により「思想又は感情」が表現されていなければならないところ、「映画の著作物」により表現される「思想又は感情」とは、「一本の映画全体を貫く思想又は感情」をいい、当該著作物全体を貫く思想又は感情を視聴者に伝達しない連続影像は映画の著作物とはいえないのであり、ゲームソフトはプレイごとに出現する連続影像が異なるから、右のような意味での連続影像を有さず、映画の著作物には当たらない旨主張する。

なるほど、「映画の著作物」に該当するためには、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」により「思想又は感情」が表現されていなければならないが、「映画の著作物」といえるための表現方法の要件としての「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ていることというのは、その規定の文言から見て、「映画の効果」としてその視覚的又は視聴覚的側面を捉えたものと解するのが自然であり、「映画の著作物」たり得るための表現方法の要件としては、被告らの主張のような意味での連続影像を有しなければならないと解すべき根拠はない。「思想又は感情」が一本の映画全体を貫く思想又は感情をいうとの被告らの所論は、表現方法の要件というよりは、むしろ、著作物性の要件に関わる問題というべきであるから、後記4で検討する。

確かに、劇場用映画においては、カメラワークの工夫、モンタージュやカット等の手法、フィルム編集等の知的な活動を通じて、その構図等において創作的工夫に係る影像を作成し、これを選択して一定の順序で組み合わせ、音声をシンクロナイズすることによって映画フィルムが作成され、これを上映することによって一定の思想又は感情の表現としての連続影像がもたらされるものであり、それ故、映画フィルムの複製物たる複数のプリント・フィルムを多数の映画館において上映することによって、多数の観客に対して、時間的・空間的な隔たりを超えて同一の思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能である。これに対して、ゲームソフトは、プレイごとにディスプレイ上に具体的に出現する連続影像が異なってくるという違いがある。しかし、後記二の2でも示すとおり、著作権法にいう「映画の著作物」は、本来的な意味での映画である劇場用映画ないし劇場用映画の特質を備えるものに限られるわけではないのであって、劇場用映画に特有な右のような特徴に限定して「映画の著作物」の表現形式上の要件を解釈する必要はない。

(三) 現在我が国で製造、販売されているゲームソフトにも、影像や音声の面での表現内容には種々のものがあるから、当該ゲームソフトが右にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」た著作物に該当するか否かは、個別具体的に判断すべきものと考えられる。

そこで、これを本件各ゲームソフトについて検討するに、証拠によれば、本件各ゲームソフトは、それぞれ、全体が連続的な動画画像からなり、CG(コンピュータ・グラフィックス)を駆使するなどして、動画の影像もリアルな連続的な動きをもったものであり、影像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており、一般の劇場用あるいはテレビ放映用のアニメーション映画に準じるような視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているといって差し支えない程度のものであることが認められる。したがって、本件各ゲームソフトは、いずれも、著作権法2条3項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ているものというのに十分である。

3 固定性について

(一) 著作権法は、映画の著作物についてのみ、「物に固定されていること」を要件としている。これは、ベルヌ条約2条(2)の「もっとも、文学的及び美術的著作物の全体又はその一若しくは二以上の種類について、それらの著作物が物に固定されていない限り保護されないことを定める権能は、同盟国の立法に留保される。」との規定に対応するものと考えられる。

そこで、右の固定性の要件の意義について検討すると、現行著作権法の制定に先立って、昭和37年から昭和41年にかけて著作権制度の改正について審議した著作権制度審議会において、映画の著作物について担当した第四小委員会は、主にテレビの生放送番組の取扱いを念頭に置いて映画の著作物の固定性の要件について検討し、昭和40年5月、映画的著作物をその効果、すなわち、影像の連続を感得せしめることによって著作物として機能するという効果のみで捉えることは、現段階では問題が多いと考えられるとした上で、「映画的著作物および映画に類似する方法で得た著作物とは、影像または影像および音の固定物であって、それを用いることによって影像の連続が平面的に再現され得るものと考えることとした。」旨の最終報告を発表し、右の報告の趣旨に沿って映画の著作物に固定性の要件を必要とする著作権法案が作成され、これが現行著作権法として成立していること、ベルヌ条約のストックホルム改正会議において、放送用映画の取扱いとともに、映画の著作物について固定性の要件を要求するか否かについての議論があり、結局、前記のとおり、著作物一般について、固定性を要求するか否かは各国の立法に委ねることにされたこと、我が国著作権法において、著作物一般については固定性を要件とせず、映画の著作物についてのみ固定性を要件としていることなどを併せ考えれば、著作権法上の映画の著作物の要件としての固定性は、これを映画の著作物としての性質に関わるものと見るのは相当でなく、むしろ、単に放送用映画の生放送番組の取扱いとの関係で、これを映画の著作物に含ましめないための要件として設けられたものであると考えるべきである。そうすると、右固定性の要件は、生成と同時に消滅していく連続影像を映画の著作物から排除するために機能するものにすぎず、その存在、帰属等が明らかとなる形で何らかの媒体に固定されているものであれば、右固定性の要件を充足すると解するのが相当である。

(二) 被告らは、「物に固定されている」とは、著作物が何らかの方法により物と結びつくことにより、同一性を保ちながら存続し、かつ、著作物すなわち特定の表現(映画の著作物でいえば連続影像群)を再現することが可能な状態をいうと主張する。しかし、ベルヌ条約上は、映画の著作物について固定性を保護の必要条件とはせず、物に固定されていない映画の著作物を保護することは立法的に採用可能であること、前記のとおり、立法過程における審議においては、固定性の要件はもっぱら生放送番組の取扱いとの関連で議論されたものであること、その他、現行著作権法が特に被告らの主張するような意味内容を映画の著作物の固定性の要件に担わせていると解すべき根拠も見当たらないことからすれば、被告らの主張は採用することはできない。

(三) そこで、右の固定性の点を本件各ゲームソフトについてみるに、前記第の事実によれば、本件各ゲームソフトは、CDーROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであり、そのデータはいずれもCDーROM中に記憶されているものであるから、右に述べたところの固定性の要件に欠けるところはない。

(四) テレビゲームは、同一のゲームソフトを使用しても、プレイヤーによるコントローラの具体的操作に応じて、画面上に表示される影像の内容や順序は、各回のプレイごとに異なるものとなるから、画面上に表示される具体的な影像の内容及び表示される順序が一定のものとして固定されているわけではない。しかし、これらの影像及びそれに伴う音声の変化は、当該ゲームソフトのプログラムによってあらかじめ設定された範囲のものであるから、常に同一の影像及び音声が連続して現われないことをもって、物に固定されていないということはできない。劇場用映画のように、映画フィルムを再生すれば常に同一の連続影像が再現されるのでなければ、「物に固定されている」とはいえないと解すべきものではない。

4 著作物性について

本件各ゲームソフトは、それぞれ前記のような内容であるが、証拠によってその具体的内容を検討するに、いずれも著作者の知的精神的創作活動の所産が具体的に表現されたものと認めるに十分であるから、これらの著作物性を肯定することができる。本件各ゲームソフトは、前示のとおり、プレイヤーの各回のプレイごとに具体的に画面に表示される連続影像が異なるものであるが、そもそもテレビゲームは、各プレイごとのプレイヤーの操作によって、具体的に出現する連続影像が同一にならないことを前提として、それ故にこそゲームをプレイできるという性格のものであって、ゲームソフトの著作者は、右のようなプレイヤーの操作による影像の変化の範囲をあらかじめ織り込んだ上で、ゲームのテーマやストーリーを設定し、様々な視覚的ないし視聴覚的効果を駆使して、統一的な作品としてのゲームを製作するものである(本件各ゲームソフトについても同様である。)。したがって、本件各ゲームソフトを含むゲームソフトは、ゲームソフト自体が著作者の統一的な思想・感情が創作的に表現されたものというべきであり、プレイヤーの操作によって画面上に表示される具体的な影像の内容や順序が異なるといったことは、ゲームソフトに「映画の著作物」としての著作物性を肯定することの妨げにはならないものというべきである。本件各ゲームソフトは、各回のプレイによって現出する連続影像が、被告らが映画の著作物の要件として主張する「一本の映画全体を貫く思想又は感情を視聴者に伝達する連続影像」に相当すると認めるに足るものである。

また、ゲームソフトの右のような性質からすれば、ゲームソフトは、プレイヤーのプレイを待たずに完成した著作物というべきことが明らかであるから、未編集の映画フィルムと同視して論じることも相当ではない。

5 証拠によれば、最近、インタラクティブ(双方向的)映画と呼ばれる、あらかじめ決まった一連の動画影像ではなく、観客の反応に応じて画面上の動き、表情、筋書き等が変化するという形で、複数用意された影像が選択されてストーリー展開が変化するという形式の劇場用映画が試験的にではあるが現れていることが認められる。右のように、現行著作権法の制定時に観念されていた劇場における映画の上映、あるいは、放送媒体による一方的な送信形態による映画の公衆送信などとは異なる表現形式の著作物が既に出現しているのであり、これらを映画の著作物の概念から除外する合理的な根拠ないし必要性があるとも考えられない。

したがって、右のような映画の著作物の現状に照らせば、ゲームソフト等のインタラクティブな表現形式を取る著作物について、「映画の著作物」から排除すべき合理的な理由はないというべきである。

6 以上によれば、本件各ゲームソフトは、著作権法上の「映画の著作物該当するものというべきである。

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