特殊車両の設備機能及びその取扱方法等を記載した取扱説明書の著作物性・編集著作物性を否定した事例

 

▶平成29年11月16日東京地方裁判所[平成28(ワ)19080]▶平成30年6月20日知的財産高等裁判所[平成29(ネ)10103等]

(前提事実)

支援車Ⅰ型とは,災害時に被災地で消防隊員等が寝泊まりしながら救援活動を行うために,情報事務処理スペース,資機材積載スペース,トイレ,シャワー,キッチン,ベッド等が備えられている車両である。支援車Ⅰ型には,居室等の空間を車両内に収納し,停車時に当該空間を車両側面から突出させることにより,車両内の空間を拡幅する機能(以下「拡幅機能」)を備えるものがある。

原告車両及び被告車両には,それぞれ車両の設備や機能及びその取扱方法等を記載した取扱説明書(以下,原告車両の取扱説明書を「原告説明書」と,被告車両の取扱説明書を「被告説明書」という。)が付属している。

 

9 争点(2)エ(原告説明書についての著作権侵害の有無)について

【(1) まず,控訴人説明書の著作物性について検討する。

ア 証拠によると,控訴人説明書について以下の事実が認められる。

控訴人説明書は,控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明書であり,説明する装備又は機器として,「鍵の種類」,「ワーニングモニターパネル」,「配電盤」,「外部電源入力」,「発電機」,「バッテリー充電」,「室内各部スイッチ」,「FFヒーター」,「換気扇」,「LPガスシステム」,「給湯器」,「冷蔵庫」,「座席,簡易ベッド,テーブル」,「リヤシート,折り畳みベッド」,「給水口,給水タンク」,「排水タンク,排水用水中ポンプ」,「エントランスドア」,「エントランスステップ」,「外部収納庫」,「シャワー(シャワールーム,アウターシャワー)」,「折畳み指揮台」,「キャブティルト」,「パワーゲート」,「ラップポントイレ」及び「センターコンソールボックス(無線機,サイレンアンプほか)」を選択し,これらにつき,各装備,機器ごとに,上記の順番で説明をしているが,同説明は,概ね,当該装備,機器の写真を掲載した上で,同写真と同一の頁に当該装備,機器の機能,操作方法及び使用上の注意事項等を記載するという方法で説明している。また,上記写真は,説明対象部分を特定するために,その部分を実線又は破線で囲み,矢印を付し,さらに,対象部分とその説明部分に同じ番号を付すなどしている。

イ 以上を前提に検討する。

(ア) 前記6のとおり,著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,作成者の何らかの個性が表れている必要があり,表現方法がありふれている場合など,作成者の個性が何ら表れていない場合は,「創作的に表現したもの」ということはできないと解するのが相当であるところ,控訴人説明書は,前記アのとおり,控訴人車両の装備,機器の機能や操作方法及び使用上の注意事項を説明したものであるが,証拠(甲30)によると,いずれも,機能及び操作方法や注意事項を,事実に即して簡潔に説明しているものと認められ,その表現方法はありふれたものであり,装備,機器の機能や操作方法が同じであれば,その説明も似たものにならざるを得ないことをも考慮すると,作成者の何らかの個性が表れていると評価することはできない。

したがって,控訴人説明書に著作物性を認めることはできない。

(イ)a これに対し,控訴人は,控訴人車両の各機能について表題を付けて整理している点,それぞれ数行程度の簡略な文章で説明している点及び一定の箇所の文字部分を四角で囲って目立たせている点などに創作性が認められる旨主張する。

しかし,説明事項について表題を付けることや,注意喚起をしたい部分を四角で囲うことは,取扱説明書において一般的に採用されている方法であり,この点に創作性が認められるということはできないというべきである。また,説明文を簡略なものとした点については,控訴人説明書のような取扱説明書においては,説明文は簡略なものとする必要があり,簡略な表現としたことから直ちに創作性が認められることにはならないところ,証拠によると,控訴人説明書の各説明文は,説明事項を取扱説明書における説明方法として一般的な方法で表現したものであり,その分量も取扱説明書としては通常のものであると認められるから,説明文を簡略化したことによって控訴人説明書に創作性が認められるということはできない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

b また,控訴人は,控訴人説明書のうち,①「〔ON〕にするとDC12Vサブバッテリー電源からAC100Vに変換し供給することができます。」,②「インバーターのAC出力は,拡幅ボディ右壁2箇所のインバーター専用コンセントと液晶テレビ,電子レンジ,トイレユニット,水中ポンプに供給されます。インバーター専用コンセントを除く電力は,発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り換わります。」,③「エンジンキー“ACC”又はDCメインスイッチONでメインバッテリーの電源が供給されます。」と表現されている部分は,他社が作成した支援車Ⅰ型についての取扱説明書における表現と異なることから,表現方法の選択の幅は狭くないと主張する。

しかし,上記の各説明部分は,インバータースイッチの機能(上記①の文について),インバーターのAC出力の供給先及びインバーター専用コンセント以外の電力は発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り替わること(上記②の文について),エンジンキーをACCの位置にするか,DCメインスイッチをONとすることによりメインバッテリーの電源が供給されること(上記③の文について)を説明したものであるが,同説明をするための表現方法が上記説明部分の表現に限らないのは当然であり,表現方法が他にあることから直ちに創作性が認められることにはならない。控訴人説明書のような取扱説明書の説明文は,機器等の機能や使用方法等を,事実に即して平易な表現を用いて,簡潔かつ明確なものとする必要があるところ,控訴人説明書の上記各説明部分は,当該機器の実際の機能,使用方法に即して通常の方法で表現したものであり,作成者の何らかの個性が表れているということはできない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

c また,控訴人は,控訴人説明書の構成は他社の取扱説明書と異なる構成となっているから,その表現方法の選択の幅は狭くない旨主張する。

しかし,控訴人の主張は,控訴人説明書の抽象的構成について主張するにすぎないから,いずれもアイデアに属するものであって,著作権法による保護は及ばないというべきである。

なお,仮に,控訴人が,上記構成が具体的な表現となった部分についての著作物性を主張するものであるとしても,それらの部分の表現方法は,取扱説明書においては一般的な表現方法であって,ありふれたものであり,著作物性を認めることはできない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

d なお,控訴人は,控訴人説明書の写真部分に著作物性が認められるかのような主張をするが,同写真に対応する被控訴人説明書の写真が,控訴人説明書の写真を複製又は翻案したものと認めることはできないから,仮に上記写真部分に著作物性が認められたとしても,同写真部分の著作権侵害は認められず,したがって,上記写真部分の著作権侵害の主張は理由がない。

(2) 次に,控訴人説明書が編集著作物に該当するかについて検討する。

ア 編集著作物とは,編集物で,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであり(著作権法12条1項),編集著作物として著作権法の保護を受けるためには,素材の選択,配列に係る具体的な表現形式において,創作性が認められることが必要である。

前記(1)アのとおり,控訴人説明書は,控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明書であるから,説明の対象として控訴人車両の装備,機器を選択することは当然であるところ,証拠及び弁論の全趣旨によると,控訴人説明書で説明されている装備や機器は控訴人車両に搭載された装備,機器であり,取扱説明書による説明が必要なものであると推認できるから,控訴人説明書に掲載した装備,機器の選択の点に作成者の個性が表れているということはできないし,また,その説明の順番にも作成者の個性が表れているということはできない。したがって,これらの点について,素材の選択又は配列に創作性を認めることはできない。

また,控訴人説明書は,説明対象として選択した装備,機器について,項目立てに階層を設けず,並列的に項目立てをし,それらの項目について順次説明しているが,このような記載方法は一般的なものであるから,この点において素材の配列に創作性を認めることはできない。

イ(ア) これに対し,控訴人は,控訴人説明書では,説明の対象として拡幅操作部分を選択していない点に創作性が認められる旨主張する。

しかし,証拠及び弁論の全趣旨によると,拡幅操作の説明文は大部となること,他の機器の操作部分とは独立性が強いことが認められるから,拡幅操作の説明を別の説明書で行うことは,利用者の利便性の観点からは,一般的に採用され得るところであり,したがって,この部分を控訴人説明書の説明対象から除いたことに作成者の個性が表れているということはできない。

よって,控訴人の上記主張は理由がない。

(イ) また,控訴人は,各頁に記載する情報及び余白の量,各説明文における写真と文章の配置に創作性が認められる旨主張するが,前記証拠によると,控訴人説明書の各頁の写真,説明文及び余白の配置は,取扱説明書としてはありふれたものであると認められ,この点に創作性を認めることはできないというべきであり,したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

ウ 以上のとおり,控訴人説明書は編集著作物であると認めることはできない。】

(3) 以上によれば,原告説明書の著作権侵害に関する原告の主張は,いずれも採用することができない。

[控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/