ルポルタージュ風の読み物vs.テレビドラマ

 

▶平成8年04月16日東京高等裁判所[平成5(ネ)3610]

(三) 右(一)及び(二)の事実によれば、原告著作物と本件テレビドラマは、主人公の夫が帰国するまでの前半の基本的ストーリーが極めて類似していることは明らかである。

また、前記二及び四に認定した事実によれば、原告著作物と本件テレビドラマとは、主人公の名前(章子)、夫婦の間の子供の有無(なし)、共働きかどうか(専業主婦)、夫の勤務先(海外に支社をもつ建設会社)、夫の転勤先(サウジアラビア)が同じであり、主人公やその夫の性格、人物像も類似していること、原判決別紙対照目録中の「具体的な内容の類似点」の項に記載のとおり、単身赴任についての問題提起、単身赴任命令に対する妻(主人公)の問題意識、海外転勤に妻を同行させない会社の事情、同行できないことを知った妻の対応・行動、妻のサウジアラビア行きの可能性を知った会社の対応等についての前半のストーリーの細部も類似しており、その表現の具体的な文言までが共通している部分もあることが認められる。

他方、原告著作物と本件テレビドラマは、主人公の夫が帰国して後の後半の基本的ストーリーにおいて、原告著作物が、前記(一)のとおり、章子が就職したことが直接的なきっかけとなって、章子夫婦は離婚し、章子は、章子の新しい生き方を尊重する男性と再婚するのに対し、本件テレビドラマでは、前記(二)のとおり、章子と夫との間に溝ができかけるが、章子はよい妻になろうと決意し、夫の単身赴任先に同行しようと大騒ぎしたことを夫に謝って夫婦は和解し、夫は再度単身赴任するというもので、大きく異なっている。また、本件テレビドラマには、原告著作物には登場しない、主人公の社宅の隣人の美貴夫婦、主人公の学生時代の先輩玲子等が登場する点でもストーリーが異なっている。

(四) ところで、原告著作物における、前半の基本的ストーリー及び単身赴任についての問題提起、単身赴任命令に対する妻(主人公)の問題意識、海外転勤に妻を同行させない会社の事情、同行できないことを知った妻の対応・行動、妻のサウジアラビア行きの可能性を知った会社の対応等の細かいストーリーとその具体的表現は、原告著作物を特徴づける個性的な内容表現を形成する要素と認められるところ、前記認定のとおり、本件テレビドラマは、前半の基本的ストーリーやその細かいストーリーが原告著作物と類似し、また具体的表現も共通する部分が存するものであり、後半の基本的ストーリー等において前記のような相違点があるにもかかわらず、原告著作物を読んだことのある一般人が本件テレビドラマを視聴すれば、本件テレビドラマは、原告著作物をテレビドラマ化したもので、テレビドラマ化にあたり、夫の帰国以後のストーリーを変えたものと容易に認識できる程度に、本件テレビドラマにおいては、原告著作物における前記の特徴的・個性的な内容表現が失われることなく再現されているものと認められるから、本件テレビドラマは原告著作物の翻案であると認めるのが相当である。

右認定の趣旨に反する(証拠)の記載内容は採用できない。

3 右1及び2によれば、控訴人らの本件テレビドラマの制作は原告著作物について被控訴人の有する翻案権を侵害するものであり、また、本件テレビドラマの放映は、被控訴人が著作権法28条により有する本件テレビドラマについての放送権を侵害するものというべきである。

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