持込み企画のテレビドラマの制作放送につき、テレビ局の過失責任(共同不法行為性)を認定した事例

 

▶平成8年04月16日東京高等裁判所[平成5(ネ)3610]

2 控訴人テレビ東京

(一) 前記三1に認定のとおり、控訴人テレビ東京は、昭和62年2月初旬頃、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似したドラマの企画書が他社から提出されていることに気付き、右企画書の表紙に「D著『妻たちがガラスの靴を脱ぐ』(汐文社刊)より」と表示されていることを知り、同月6日、担当者のEが控訴人Aに対し、本件テレビドラマの原作はどうなっているか確認したところ、控訴人Aは、原作ではないが、被控訴人の著作からアイデアを借りていることがあると説明したこと、そのため、Eは控訴人Aに対し、被控訴人との間で問題が生じないように被控訴人の了解を得るように指示したこと、同月8日、控訴人Aから控訴人テレビ東京に対し、被控訴人の了解が得られた旨の連絡があったので、同月9日に本件テレビドラマを放映したこと、他社から前記企画書が提出されていることを知ったときから右放映に至るまでの間に、控訴人テレビ東京の担当者は、原告書籍を読んで本件テレビドラマと類似しているか否かなどについて検討したことはなかったことが認められる。

ところで、放送事業、放送番組の制作等を業としている控訴人テレビ東京としては、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないように万全の注意を払う義務があることは当然であり、このことは、当該テレビドラマの制作を第三者に委託し、これを放映する場合であっても同様であるところ、控訴人テレビ東京は控訴人Aや控訴人IVSに対し、本件テレビドラマの企画提案、制作の段階で、本件テレビドラマには原作なり、使用している素材があるのかどうかについて確認しなかったものであり、しかも、本件テレビドラマの放映前に、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似した内容の企画書が他社から提出されていることや、その企画書に被控訴人名や著書名が表示されていることを知りながら、また、控訴人Aからは、被控訴人の著作からアイデアを借りていることがあるとの説明を受けていながら、自ら原告書籍を読んで、本件テレビドラマの制作、放映が被控訴人の著作権や著作者人格権を侵害するものではないか否かを検討することもなく、また、被控訴人の了解を得た旨の控訴人Aの回答を安易に信用して、被控訴人に許諾の確認をしなかったものであって、これらの過失により、本件テレビドラマの制作、放映により被控訴人が原告著作物について有する翻案権及び同一性保持権を侵害し、被控訴人が二次的著作物である本件テレビドラマについて有する放送権を侵害したものと認められる。

(二) 控訴人テレビ東京は、本件テレビドラマは控訴人A及び控訴人IVSの持込み企画であり、しかも、本件テレビドラマの制作については、控訴人IVSが一切の権利義務関係の処理を自己の負担と責任において行う約定になっていたうえ、控訴人A及び控訴人IVSは、本件テレビドラマの企画提案から制作、納入、放映の全期間にわたり、控訴人テレビ東京に対し一貫して原告著作物の存在(放映前にはその内容)を隠蔽し、控訴人テレビ東京を偽り続けたものであるから、控訴人テレビ東京に対し過失責任を負わせるのは著しく公平を欠くものである旨主張する。

前記三1に認定のとおり、控訴人テレビ東京と控訴人IVSとの間で本件テレビドラマについて調印されたテレビ番組製作契約書の条項の一部である「テレビ番組製作契約基準条項」の第12条には、控訴人IVSは、この契約により控訴人テレビ東京が取得する諸権利を支障なく行使できるように、本番組に使用される一切の著作物の著作権等の処理をすべて控訴人IVSの負担と責任において行うものとすることが定められているが、右約定を理由として、第三者である被控訴人に対する権利侵害についての注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではない。また、控訴人A及び控訴人IVSが控訴人テレビ東京に対し、原告著作物の存在・内容を隠蔽していたものであるとしても、控訴人テレビ東京においては、本件テレビドラマの放映前に偶然とはいえ、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似した内容の企画書が他社から提出されていることや、その企画書に被控訴人名や著書名が表示されていることを知ったものであり、控訴人Aからは被控訴人の著作からアイデアを借りているとの説明を受けたこと、控訴人Aが控訴人テレビ東京から指摘されて初めて被控訴人の著作からアイデアを受けている旨説明したことからしても、控訴人テレビ東京としては、本件テレビドラマの制作、放映が被控訴人の著作権等を侵害するものではないかという疑いを持って当然であると考えられることからすると、控訴人テレビ東京に過失責任を負わせることが著しく公平を欠くものであるとは認められない。

したがって、控訴人テレビ東京の右主張は採用できない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/