幼児の練習用箸(そのデザイン画を含む。)の(美術)著作物性及び侵害性を否定した事例(再掲) | 著作権コンサルタントが伝えたいこと

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幼児の練習用箸(そのデザイン画を含む。)の(美術)著作物性及び侵害性を否定した事例(再掲)

 

▶平成28年4月27日東京地方裁判所[平成27(ワ)27220]▶平成28年10月13日 知的財産高等裁判所[ 平成28(ネ)10059]

[控訴審]

1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。

その理由は,後記2のとおり付加するほかは,原判決…に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 付加判断

(1) 原告各製品に関し

ア 控訴人は,工業的に大量生産され,実用に供されるものであるからといって,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは相当でなく,「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を満たすものについては,「美術の著作物」としてこれを保護すべきである(意匠法等の他の法律によって保護されることを根拠として,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法が保護を予定している対象ではないとするのは誤りである)とした上で,原告各製品は,①キャラクターが表現された円形部材により最上部で結合された連結箸である点,②1本の箸に人差し指と中指を入れる2つのリングを有し,かつ,他方の箸に親指を入れる1つのリングを有して,合計3つのリングが設けられている点において,他社製品に比べて特徴的な形態を有しており,そこには作者の個性が発揮されていて創作性が認められるから,「美術の著作物」として保護されるべきものである,と主張する。

イ しかしながら,控訴人の主張は採用できない。理由は次のとおりである。

(ア) 第一に,実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上,美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは,美術の著作物としての創作性を認める上で最低限の要件というべきである)。したがって,控訴人の主張が,単に他社製品と比較して特徴的な形態さえ備わっていれば良い(およそ美的特性の有無を考慮する必要がない)とするものであれば,その前提において誤りがある。

(イ) 第二に,原告各製品の形態は一様ではなく,少なくとも前記①の点をもって共通の特徴的な形態とするのは誤りである。

すなわち,原告製品1~6は,最上部で結合されているものの,連結部分はそれぞれ左右に大きな円形の耳を有しており,単純な円形部材ではない。また,キャラクターが表現されているのは連結部分ではなく円形の耳の方である。

原告製品7及び8は,最上部で結合されているものの,連結部分はそれぞれ機関車トーマスシリーズのキャラクターが模られており,円形部材ではない。

原告製品9は,最上部で結合されているものの,連結部分は括れた楕円形のような形をしており,単純な円形部材ではない。

原告製品10,14及び15は,最上部で結合されているものの,連結部分は星形のような形をしており,円形部材ではない。

原告製品11~13は,そもそも最上部で結合されておらず,連結部分も円形部材ではない。

原告製品16~19は,最上部で結合されているが,連結部分は立体的なディズニーのキャラクターが模られており,円形部材ではない。

以上のとおり,原告各製品はいずれも連結箸であるが,必ずしも「キャラクターが表現された円形部材により最上部で結合され」ているとはいえず,せいぜい,原判決が認定するとおり,「箸本体を上部の円形部材等で連結させている」といい得るにすぎない。したがって,前記①の点をもって共通の特徴的な形態とするのは誤りである。

(ウ) 第三に,原告各製品は,幼児が食事をしながら正しい箸の持ち方を簡単に覚えられるようにするための練習用箸であって,その目的を実現するために,2本の箸を連結する,あるいは,箸を持つ指の全部又は一部を固定するというのは,いずれもありふれた着想にすぎず,このことは(証拠)の各製品や,(証拠)の各公報に描かれたデザインを見ても明らかである。また,かかる着想を具体的な商品形態として実現しようとすれば,箸という物品自体の持つ機能や性質に加え,練習用箸としての実用性が求められることからしても,選択し得る表現の幅は自ら相当程度制約されるのであって,美術の著作物としての創作性を発揮する余地は極めて限られているものといえる。

(エ) 以上に基づいて検討するに,まず,箸を連結すること自体はアイデアであって表現ではない(なお,連結部分にキャラクターを表現することも,それ自体はアイデアであって,著作権法上保護すべき表現には当たらない。)し,その具体的な連結の態様を見ても,原告各製品が他社製品と比較して特徴的であるとまではいえず,まして美的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされているとは認め難い。よって,前記①の点に美術の著作物としての創作性を認めることはできない。

次に,箸を持つ指やその位置が決まっている以上,これを固定しようと考えれば,固定部材を置く位置は自ずと決まるものであるし,人差し指,中指,親指の3指を固定することや固定部材として指挿入用のリングを設けることも,例えば,原告各製品が製造販売されるより前に刊行された(証拠)の各公報においても類似の構成が図示されている(すなわち,(証拠)には,一対の箸のうち1本が人差し指と中指を入れる2つのリングを有し,他方の1本が親指と薬指を入れる2つのリングを有するものが図示されている。乙8には,一対の箸のうち1本が人差し指と中指を入れる2つのリングを有し,他方の1本が薬指を入れる1つのリングを有するものが図示されている。)ように,特段目新しいことではない。原告各製品も通常指を置く位置によくあるリングを設けたにすぎず,その配置や角度等に実用的観点からの工夫があったとしても,美的鑑賞の対象となり得るような何らかの創作的工夫がなされているとは認め難い。よって,前記②の点についても,美術の著作物としての創作性を認めることはできない。

(オ) 以上のとおり,控訴人が主張する前記①②の点は,いずれも実用的観点から選択された構成ないし表現にすぎず,総合的に見ても何ら美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えるものではない。

よって,前記①②の点を理由に,原告各製品について美術の著作物としての著作物性を認めることはできないというべきである。

(2) 原告図画について

ア 控訴人は,原告図画が美術の著作物として保護されることを前提に,被告各商品は,最上部で結合された連結箸であり,1本の箸に人差し指と中指を入れる2つのリングを有し,かつ,他方の箸に親指を入れる1つのリングを有し,合計3つのリングを有する点において,表現されている本質的特徴を共通にするものであること,原告図画の影の表現等の絵画的な特徴は,三次元の物体を感得させる創作的表現であり,被告各商品は原告図画に創作的に表現された思想又は感情を三次元化したものであることを理由に,被告各商品は原告図画を翻案したものである,などと主張する。

イ そこで検討するに,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうが,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解すべきである(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。

これを本件についてみるに,そもそも,被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠がないことは,原判決が指摘するとおりである。

この点を措くとしても,控訴人が表現上の本質的特徴を共通にすると主張する部分は,原告各製品において検討した前記①②の点と同じであり,これらの点に創作性が認められないことは前記のとおりであるから,控訴人の主張は,結局のところ,表現上の創作性がない部分において同一性を主張するにすぎないものである(なお,原告図画は,原告製品1~6を図示したものであることが明らかであって,連結部分の左右に大きな円形の耳が描かれているのに対し,被告各商品はいずれも連結部分にそのような耳を備えておらず,両者は一見して明らかに異なる物品であることが明らかである。)。

ウ 以上によれば,被告各商品について,原告図画の翻案権侵害が成立する余地はないというべきであり,これに反する控訴人の主張は採用できない。

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