ワイナリーの広告看板用の図柄の著作物性を否定した事例

 

▶平成25年7月2日東京地方裁判所[平成24(ワ)9449]▶平成26年01月22日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10066]

[控訴審]

1 当裁判所は,控訴人の当審における追加主張をふまえても本件図柄に著作物性は認められず,被控訴人には不法行為責任は認められないから本件控訴は棄却されるべきものと判断する。

その理由は,次のとおり原判決を補正するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。

(略)

2 控訴人の当審における主張に対する判断

(1) 本件図柄の著作物性について

控訴人は,本件図柄を一体として鑑賞した場合,本件図柄における文字は,思想,感情を表現するものとして,絵柄に融合しており,絵柄の美術性に含まれているし,本件図柄は,画面いっぱいに,大胆にグラスが描かれ,構図的バランスが,ずしりと重量感を与え,色彩感覚と美的に表現され,見る人の心を惹きつけてやまないのであって,ありふれた平凡な絵柄ではなく,美術性と創作性を兼ね備えていると主張する。

控訴人は,本件図柄が被控訴人からの依頼で作成したものであることを否定するととともに,広告看板用の図柄であることを否定するが,本件図柄は芸術作品としてではなく,あくまでも広告業におけるマーケティングの一環として作成されたものであるし,芸術作品として展示や販売に供されたというように,広告看板以外の目的に使用されたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件図柄は,あくまでも広告看板用のものであり,実用に供され,あるいは,産業上利用される応用美術の範ちゅうに属するというべきものであるところ,応用美術であることから当然に著作物性が否定されるものではないが,応用美術に著作物性を認めるためには,客観的外形的に観察して見る者の審美的要素に働きかける創作性があり,これが純粋美術と同視し得る程度のものでなければならないと解するのが相当である。このような観点から見ると,本件図柄のグラスの形状には,通常のワイングラスと比べて足の長さが短いといった特徴も認められるものの,それ以外にグラスとしての個性的な表現は見出せない。また,ワイナリーの広告としてワイングラス自体が用いられること自体は珍しいものではない上に,図柄が看板の大部分を占めている点も,ワイナリーの広告としてありふれた表現にすぎない。そして,本件図柄を全体的に観察すると,上記ワイングラスの大きさや形状に加えて,被控訴人の商号及びワイナリーや工場の見学の勧誘文言が目立つような文字の配置と配色がなされていることが特徴的であるが,これも,一般的な道路看板に用いられているようなありふれた青系統の色と補色に近い黄色ないし白色のコントラストがなされているにとどまる。

そうすると,本件図柄には色彩選択の点や文字のアーチ状の配置など控訴人なりの感性に基づく一定の工夫が看取されるとはいえ,見る者にとっては宣伝広告の領域を超えるものではなく,純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを肯定することは困難である。控訴人が著作物性の根拠として強調する点は,宣伝広告の効果を向上させるための工夫とも共通するものであって,必ずしも芸術性を高めるものではない。また,控訴人が主張するように,現代における芸術分野の区分の流動化が認められるとしても,本件図柄はあくまでも広告看板用に作成されたものであって,応用美術の範囲に属することに変わりはないというべきであるから,上記で判示した著作物性を認める判断基準が変わるわけではなく,本件図柄の著作物性を否定した上記判断を左右するものではない。

さらに,控訴人主張のとおり,ペンチという道具を単純化してその一部を平面的にデフォルメして構図化したデザインや四角いキャンバスを二つの三角形に分けてそれぞれ単色で色づけしたデザインのように,一見ありふれた表現方法が用いられているものが芸術作品として取り扱われている例があるとしても,これらは,いずれも美術作品として一点限りで制作されるのであって,広告のために複数が作成される商業的作品とは相違する上,作成時期も本件図柄と違っていずれも昭和40年代の作品で美術史的な位置付けも異なり,あくまでも純粋に審美性を追求する見地からシンプルな配色やデザインがあえて使用されたとも評価できる。そうすると,遠方から確認しやすく,一般消費者である通行人や通行車両の注意を惹き,広告対象物への興味をわき上がらせる形態が一次的に要求される広告看板用の本件図柄とは,その配色や構図の目的や意味合いは自ずと異なり,著作物性の前提となる作成者の創作性の反映や見る者に対する審美的要素への働きかけの有無や程度も当然に異なってくるというべきである。したがって,上記のような美術作品の存在は,本件図柄につき純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを否定した上記判断を左右するものではない。よって,本件図柄には著作物性は認められないというべきであり,その帰属について判断する必要もない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/