ゲームに由来する「小説の主人公の名称」につきその著作物性を否定した事例

 

▶令和5年10月20日東京地方裁判所[令和3(ワ)27154]▶令和6年4月23日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10104]

(注) 原告は、本件小説(被告スクウェア・エニックスが平成2年にスーパーファミコン専用のソフトとして発売した「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(本件ゲーム)を題材に執筆された「小説ドラゴンクエストV天空の花嫁」という題名の小説のこと)を執筆するにあたり、本件ゲームの主人公に当たる架空の人物の名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(「本件正式名称」)と設定し、その通称を「リュカ」(「本件通称」。本件正式名称と併せて「本件名称」)と設定し、本件小説において主人公に当たる人物について本件名称を使用した。なお、「グランバニア」とは、本件ゲームにおける主人公の祖国の名称であり、主人公は同国の王族である。

 

1 本件名称に著作物性が認められるか(争点1)について

(1) 著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)が著作物とされている。

原告は、本件名称がそれ自体で著作物であると主張する。しかし、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。

本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。本件名称は、いずれも著作物ではない。

(2) 原告は、小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が呼称される場合には、名称等が具体的表現になるなどと主張する。

しかし、小説中の特定の場面において登場人物名が重要な役割を果たし、登場人物名の描写を含む当該場面に関する具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではなく、当該特定の語句が他の箇所で使われた場合に著作物が使われたことになるものではない。なお、ある特定の場面において登場人物名が効果的に使用され、それにより同場面での当該登場人物の活動等が印象付けられたとしても、そのことを理由として当該特定の場面の具体的描写を離れて登場人物名が著作物となるとすると、特定の場面において活動等を行ったことがある者などという抽象的な概念を著作物として保護することとなるが、それは認められない(最高裁平成9年7月17日最高裁第一小法廷判決)。

(3) よって、本件名称は著作物に当たるとはいえないから、原告の被告らに対する著作権侵害の不法行為に基づく請求にはいずれも理由がない。

[控訴審同旨]

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