侵害専用品を販売している者に対する差止の可否

 

▶平成17年10月24日大阪地方裁判所[平成17(ワ)488]▶平成19年06月14日大阪高等裁判所[平成17(ネ)3258等]

[控訴審]

争点(8)(差止め請求)について

(1) 法112条1項は,差止めにつき,これを請求し得る者としては「著作者,著作権者,…著作隣接権者」,請求の相手方としては「著作権,…著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」,請求し得る内容としては「その侵害の停止又は予防」とそれぞれ規定している。

そして,既にみたとおり,被控訴人らは,放送事業者として著作隣接権者であり,一部の番組については職務上著作の著作者でもあり,他方,控訴人は,被控訴人らの支分権としての複製権,公衆送信権・送信可能化権をいずれも侵害し,又は侵害するおそれがあるものといえるから,被控訴人らは,控訴人に対し,同条項に基づき侵害の停止又は予防を請求することができるというべきである。

ところで,ここにいう著作権,著作隣接権の侵害とは,本件に即していえば,著作者の複製権,公衆送信・送信可能化権,著作隣接権者の複製権,送信可能化権の侵害であり,したがって,停止を求め得る侵害行為は,複製行為,公衆送信・送信可能化行為であるところ,商品販売によって所有権,占有権が入居者等に帰属するなどの状況において,控訴人が控訴人商品を使用した複製行為,公衆送信・送信可能化行為そのものを現実に差し止め又は入居者等をして差し止めさせ得る直接的手段を有することを認めるに足りる証拠はない。

しかるところ,前記のとおり,入居者の控訴人商品の使用による被控訴人らの著作隣接権等の侵害は控訴人商品の構成自体に由来し,控訴人商品を販売しないことは,当該侵害の停止,予防として直截的かつ有効であるから,被控訴人らは上記のとおり侵害行為の主体といい得る控訴人に対し,次の内容の限りで,控訴人商品の販売による入居者の侵害行為の差止め請求をすることができる。

すなわち,本件における侵害行為である複製行為,公衆送信・送信可能化行為のうち,公衆送信・送信可能化行為該当の要件となる「公衆」という概念は,法上,行為者から見て相手方が不特定人である場合の当該不特定人を意味するほか,特定かつ多数の者を含むから,控訴人商品の設置される集合住宅の入居者が特定人に該当するとすれば,多数である場合に「公衆」に該当し,そうでなければ「公衆」に該当せず,公衆送信・送信可能化行為に当たらないこととなるところ,前記のとおり,少なくとも24戸以上の入居者が使用者となる場合は「公衆」に該当して必ず公衆送信・送信可能化権の侵害が生じ,その限度では,控訴人商品は,少くとも,使用の都度,常時,被控訴人ら著作隣接権者の有する送信可能化権侵害が発生するいわゆる侵害専用品といい得るが,当該戸数に至らない場合,控訴人商品の使用態様,条件によっては,公衆送信・送信可能化権を侵害しない場合もあり得る。

一方,前記したところによれば,控訴人商品は,集合住宅向けに販売してこれをその本来の用途に従って使用すれば,上記「公衆」該当の如何に関わらず,必ず複製権侵害が発生する物,少なくとも,使用の都度,常時,被控訴人ら著作隣接権者の有する複製権侵害が発生する,いわゆる侵害専用品といい得る物である。

我が国のような自由市場においては,すべての取引はこれを行う当事者の自由な創意,工夫にゆだねられ,これにより経済の発展が図られるとの理念の下に経済社会の運営が行われているところ,その一方,取引当事者は,秩序ある公正な市場での適切かつ公正な競争を維持する責任を負っているというべきであり,知的財産権の重要性を考慮すると,絶対権である知的財産権のいわゆる侵害専用品は,通常の流通市場において取引の対象とするのが不相当の物といえる。

そして,前記のとおり,控訴人商品の構成上,その販売が行われることによって,その後,ほぼ必然的に入居者による被控訴人らの著作隣接権の侵害が生じ,これを回避することが,裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めることを除けば,社会通念上不可能であるところ,裁判等により集合住宅の入居者の侵害行為を直接差し止めようとしても,侵害が行われようとしている場所や相手方を知ることが困難なため,完全な侵害の排除及び予防は事実上難しい。

したがって,法112条1項,2項により,被控訴人らは,少なくとも,著作隣接権に基づき,複製権侵害を理由に侵害行為の主体といえる控訴人に対し,規範的には,その侵害の差止めを求めることができ,具体的には控訴人商品の販売により同入居者に同商品使用による放送番組の録画をさせてはならない旨求めることができるものと解するのが相当である。

もっとも,著作権に基づく同様の差止め請求は,被控訴人らの著作権のある放送番組が常時放送されているといえない以上,控訴人商品が同著作権についての侵害専用品とはいえないので,控訴人商品の販売により同商品を使用させてはならない旨を命ずることが著作権のない番組を含めたすべての番組に関する差止めを認めることとなり,被控訴人らに過大な差止めを得させることとなり,不相当であるから,認めることができない。

一方,個々の著作権のある放送番組を個々に特定してその複製行為,公衆送信・送信可能化行為そのものの差止めを控訴人に求めることは,前記のとおり,控訴人がこれを現実になし得る直接的手段を有しない以上,認められない。

そして,被控訴人らの求める著作隣接権及び著作権に基づくその余の差止め請求は法112条1項に照らし,認められない。

次に,被控訴人らは,法112条1項の類推適用を主張するが,その主張するところは,侵害主体性の根拠としていうところと大差なく,仮に同条項の類推適用が肯定されるとしても,上記のとおり,同条項に基づく差止め請求の可否につき説示したことと異なる結論を導くこととならない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/