パロディーとして許される表現行為について

 

▶平成13年12月19日東京地方裁判所[平成13(ヨ)22103]

3 争点(3)(パロディーとして許される表現行為といえるか)について

(1) 一般に,先行する著作物の表現形式を真似て,その内容を風刺したり,おもしろおかしく批評することが,文学作品の形式の一つであるパロディーとして確立している。パロディーは,もとになる著作物の内容を踏まえて,これを批判等するものであるから,もとになる著作物を離れては成立し得ないものであり,内容的にも読者をしてもとになる著作物の思想感情を想起させるものである。しかし,パロディーという表現形式が文学において許されているといっても,そこには自ずから限界があり,パロディーの表現によりもとの著作物についての著作権を侵害することは許されないというべきである。

(2) これを本件についてみるに,本件著作物と債務者書籍のそれぞれの内容を比べると,本件著作物は,仕事や生活の場で変化に直面したときに,変化に素早く適応し,従来のやり方には固執せず,進んで自分自身を変えなければ,事態は好転しないと説く内容であるのに対して,債務者書籍は,変化で失ったものに代わる何かを追い求め,必死に前進しなければという焦燥感から自分を見失うことの無意味さを訴え,何となく感じる日常の幸せを大事にしようと説く内容であることが認められる。

以上によれば,債務者書籍は本件著作物を前提にして,その説くところを批判し,風刺するものであって,債務者らの主張するとおりパロディーであると認められるが,前記2でみたとおり,債務者書籍は,本件著作物とテーマを共通にし,あるいはそのアンチテーゼとしてのテーマを有するという点を超えて債権者甲の本件著作物についての具体的な記述をそのままあるいはささいな変更を加えて引き写した記述を少なからず含むものであって,表現として許される限界を超えるものである。

 (3) 債務者らは,憲法で保障されている表現の自由の一つの行使態様として債務者らが債務者書籍を出版することは許される旨主張する。しかし,表現の自由といえども公共の福祉との関係,本件でいえば他者の著作権との関係での制約を免れることはできず,しかも債務者らとしては債権者甲の著作権を侵害することなく本件著作物の内容を風刺,批判する著作物を著作することもできたのであるから,上記のように解したとしても不当にパロディーの表現をする自由を制限するものではない。債務者らの主張は理由がない。

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