エクササイズやストレッチをする際に用いるクッションの著作物性を否定した事例

 

▶令和3年2月17日東京地方裁判所[令和1(ワ)34531]▶令和3年6月29日知的財産高等裁判所[令和3(ネ)10024]

3 争点3(原告が本件商品に係る著作権を有しているか。)について

(1) 本件商品は,前記前提事実によれば,エクササイズやストレッチをする際の補助具に用いるクッションであり,実用上の目的を有する工業製品に属するものであるが,他方で,証拠によれば,一般的なクッションとは異なり,長方形のクッションの四隅が斜め上方に突出することで,X字形の印象を与える形状を有するものであり,また,その突出部分には,細く長いものと短く太いものとの2種があり,突出部分と中央部分に,半球状又は半長球状の6個の突起部分が形成されているなどの特徴を有するものであると認められる。

【(2) 本件商品のような実用に供される工業製品であっても,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合には,著作権法2条1項1号の「美術」の著作物として,著作物性を有するものと解される。しかし,そのような美的特性を備えていると認められない場合には,著作物性を有することはないものと解される。以上の点は,著作権法に明文の規定があるものではないが,実用に供される工業製品は,意匠法によって保護されるものであり,意匠法と著作権法との保護の要件,期間,態様等の違いを考えると,「実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性」を備えていると認められる場合はともかく,そうでない場合は,著作権法ではなく,もっぱら意匠法の規律に服すると解することが,我が国の知的財産法全体の法体系に照らし相当であると解されるからである。これに反する控訴人の主張を採用することはできない。

(3) 本件商品は,全体として実用に供される工業製品として把握されるものであって,X字形の印象を与える形状は,幅広い体型にフィットさせるという目的で採用されたものであり,突出部分に2種あるのも同様の理由によるものであり,また,6個の突起部分も,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての機能から設定されるものである。

控訴人が主張するように,本件商品は,形状に工夫が凝らされていて,これを見た者に美しいと感じさせることがあり,そのために機能的な面で犠牲を払った点があるとしても,エクササイズやストレッチをする際の補助具としての実用的な機能と分離して把握することができる,美術鑑賞の対象となる美的特性を備えていると認めることはできない。

控訴人は,特に,他社製品と類似する旨の指摘を被控訴人から受けてデザインを変更した際,独創性等を最も重視した旨主張するが,その際の企画書に,「改良点のコンセプト」について,「心地良さ(ストレッチ,マッサージ,指圧効果)と姿勢(骨盤)矯正ができる実用性を訴求ポイントとしてアピール」と記載されていることからして,控訴人の上記主張は採用できない。その他控訴人が主張する事情も,いずれも上記認定判断を左右するものではない。】

(4) したがって,本件商品は著作物性を有さず,原告が,その著作権を有すると認めることはできず,本件商品を設計する基礎となった各種図面に対する著作権についても同様である。そうすると,【控訴人の本件予備的差止請求のうち著作権法112条に】基づく部分は理由がない。

[控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/