データの”盗用”は一般不法行為を構成するか

 

▶平成12年10月18日名古屋地方裁判所[平成11(ワ)5181]

(注) 本件は、原告が被告に対して、原告が出版した書籍に記載されている自動車部品に関するマーケットリサーチにより得たデータを被告がそのまま盗用し、あるいはデータの数値をわずかだけ改変するなどして被告が出版する書籍に記載したことが原告の著作権及び著作者人格権を侵害し又は一般不法行為を構成するとして、著作権法112条1項に基づき侵害行為の差止め等を求めるとともに、著作権法114条2項、民法709条に基づき損害賠償を求めた事案である。

 

2 一般不法行為法における要保護利益について

前項に述べたとおり、データ自体は、仮にその集積行為に多額の費用、時間及び人員を費やしたものであったとしても著作権法の保護の対象となるわけではない。しかしながら、このような情報の集積行為及びそれによって得られた情報の全てが法的に保護すべき価値を有しないというわけではなく、このような情報が特別法により保護される場合(不正競争防止法2条1項4号ないし9号)は存するし、一定の場合には、民法709条によって保護されることがないとはいえない。

しかしながら、本来何人であっても接することができ、あるいは利用することができる客観的な情報(ないしデータ)について、特定の者に排他的な権利を付与することはそれ以外の者が当該情報を利用する機会を奪い、その活動を制約するものであるから、前記のような特別の法の規定がないものについて一般規定である民法709条による保護を与えることは慎重でなければならない。

これを本件についてみると、本件データは「自動車部品200品目の生産流通調査」の1996年(平成8年)版及び「カーエレクトロニクス部品の生産流通調査」の第三版(平成七年版)にそれぞれ記載されたものであるが、これらのデータは、原告が主張するとおり、自動車部品の流通業界においては有用性が高いものであると認められるから、原告書籍が発刊された平成七年又は平成八年当時においては一定の財産的経済的価値を有し、保護され得たと解する余地がある。しかしながら、原告書籍が発刊された後においては、右データはだれもが利用可能な状態に置かれたことになるから、発刊直後に原告書籍をデッドコピーした書籍を発行するといった行為を除いて、そのような状態に置かれた右データを利用する行為が直ちに不法行為を構成するということはできない。また、本件データのようにマーケットリサーチによって得られたデータの価値は、一般に時間と共に不可避的に劣化していく性格のものであり、時系列的にデータを対比して見る必要があるなど特定の場合を除いては、複数年経過後における商品的価値はほとんどなくなるというべきである。とりわけ自動車業界における部品調達に関するマーケットリサーチデータについては、今日見られるように自動車業界の再編成は著しいものがあることに加え、技術の進展や消費者のニーズの多様化等により各自動車メーカーにおいて自動車のモデルチェンジが頻繁に行われるなど自動車部品の調達状況、シェア割合が刻々と変化していることにより、その価値の劣化は著しいというべきである。したがって、自動車業界における部品調達に関して、2、3年も前に集積されたデータには、第三者による無断使用行為に対して法的な保護に値するだけの価値を認めることはできない。

そして、本件データは、被告書籍が出版された平成11年6月30日時点において、既に市場に置かれてから3、4年が経過しているのであるから、このようなデータは不法行為による侵害に対して法的な保護に値するだけの価値を有していないというべきである。

よって、不法行為に基づく原告の請求も理由がない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/