一級建築士資格取得講座テキストの文章及び図表の著作物性・侵害性が問題となった事例

 

▶平成27年7月16日東京地方裁判所[平成26(ワ)26770]

1 争点(1)(複製権及び翻案権侵害の成否)について

(1) 原告各表現はいずれも原告各書籍の一部(文章又は図表)を抜き出したものであるが,原告は被告各表現が原告各表現と同一であるなどとして複製権又は翻案権の侵害が成立すると主張する。ところで,著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照),被告各表現が原告各表現に依拠して作成されたものであるとしても,思想,感情若しくはアイデア,事実,学術的知見など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告各表現と共通するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である。

(2) 上記の観点から複製権等の侵害の成否について検討すると,以下のとおり,いずれについても侵害を認めることはできないというべきである。

ア 原告表現1について

原告表現1は,原告書籍1に掲載された平成8年一級建築士本試験の製図問題(設計課題「景勝地に建つ研修所」)中の図面であり,原告書籍1には次の①ないし③の点を除いて上記問題がそのまま掲載されている。

原告は,原告表現1と上記問題の図面とは,①湖を表す部分,②等高線の描き方,③方角表示が異なっており,これらの点については原告が独自の表現をしたものであるから,原告表現1には創作性が認められると主張する。

そこで判断するに,①の湖を表す部分が,上記問題の図面ではまだら状の模様であったのを,一部を切り欠いた横線とし,切り欠き部分が斜め方向に連なるような模様としている点,②の等高線の描き方が,線の曲がり方が同図面より緩やかになっている点,③の方角表示が同図面より細い矢印を用いている点で原告表現1は同図面と異なっているが,これらのうち水面を横線で表示することはありふれた表現方法であると解される。また,等高線の曲がり方の相違は僅かなものであるし,方角表示を矢印で表現することは,矢印の太さにかかわらずありふれたことであり,その表現に作成者の個性が表れているとみることは困難である。これに加え,原告書籍1は過去の本試験問題を掲載したものであり,事柄の性質上,図面を含めて問題を忠実に再現することが求められることを考慮すると,上記の各相違点を総合しても,原告表現1につき著作権法上保護すべき創作性を認めることはできない。したがって,被告表現1が原告表現1を機械的に複写したものであるとしても,原告の著作権を侵害することはないと解すべきである。

イ 原告表現2について

原告表現2は,原告書籍2に掲載された平成22年一級建築士試験「設計製図の試験」の答案例(2階平面図等)の一部である。

原告は,被告表現2を原告表現2と対比すると,①構造要素及び照明器具の記号(全般照明(LEDダウンライト)を示す「○」,スポットライトを示す「▽」,ウォールウォッシャーを示す左右両端を斜めに黒く塗りつぶした横長の長方形の各記号),②2階平面図のうち常設展示室に図示されたライトの配置及び数が原告表現2と同一であるから,著作権侵害となる旨主張する。

そこで判断するに,①について,照明器具等を図示するに当たり記号を用いること自体はアイデアであり,原告が用いた上記各記号の形状は単純なものであって,これが他の設計図面に見られない特異なものであることをうかがわせる証拠はない。また,②について,ライトの配置及び数が同一であることもアイデアが共通であるにとどまり,図面上の表現自体はありふれたものと解される。したがって,上記①及び②のいずれについても表現上の創作性を認めることはできない。

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