カタログへの美術作品の複製につき、適法引用を認めなかった事例

 

▶平成28年6月22日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10019等]

6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)

被告は,本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張するが,その趣旨は,本件カタログにおける美術作品の作者,題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり,美術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。

そこで検討するに,著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用した利用が許されるためには,その方法や態様が,報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。

本件カタログにおいて美術作品を複製する目的が,本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに,作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋,内容を通知し,入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にあるのは,明らかである。本件カタログには,美術作品の写真に合わせて,ロット番号,作家名,作品名,予想落札価格,作品の情報等が掲載されるが,実際の本件カタログをみる限り,各頁に記載された写真の大きさが上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く,掲載された写真は,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさといえ,上記の情報等の掲載に主眼が置かれているとは解し難い。しかも,本件オークションでは,本件カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと,上記の情報等と合わせて,美術作品の写真を本件カタログに記載された程度の大きさで掲載する合理的な必然性は見出せない。

そうすると,本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が,本件オークションにおける売買という目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また,公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。

したがって,被告の主張は理由がない。

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