コンタクトレンズのチラシの著作物性を否定した事例

 

▶平成31年1月24日大阪地方裁判所[平成29(ワ)6322]▶令和元年7月25日大阪高等裁判所[平成31(ネ)500]

1 争点1-1(本件チラシの著作物性)について

(1) 本件チラシの内容

ア 本件チラシ[注:コンタクトレンズの販売宣伝のためにチラシのこと]の内容は別紙「著作物目録」のとおりであり,表面の左側には,「コンタクトレンズの買い方比較」という表題が付された表が掲載されるとともに,その下に「調子良くコンタクトをご使用中の方へ」と記載され,さらにその下に,「検査時間」と「受診代金」という太くて大きな文字の上に「×」を付したものが記載され,その横に,視力検査をしている男の子のイラストが付されている(なお,このイラストはインターネット上のフリーアイコン等を使用したものである。下記イの女の子のイラストも同じ。)。そして,これらの下に大きな赤字で「検査なしでスグ買える!!」と記載され,さらにその下には,「なぜ検査なしで購入できるの?」という質問と,それに対する説明が記載されている(その説明内容は,同別紙記載のとおりである。)。

イ また,本件チラシの表面の右側には,「検査なし/スグ買える!」と記載されているところ,このうち「検査なし」,「スグ」という文字が大きく,太く記載されるとともに,それに続いて若干小さく,細い文字で「買」という文字が,さらに小さく,細い文字で「える!」という文字が記載されている。また,「スグ」という部分に黄色の着色がされ,かつこれを女の子のイラストから出された吹き出しの中に記載されることで,「スグ」という文字が強調されている。

そして,その下には,商品の写真や値段等,店舗名と地図が記載・掲載され,一番下に割引クーポンが付されている。

ウ 本件チラシの裏面には,商品の写真を掲げつつ,その下側に商品名や値段等が記載されるとともに,適宜商品の説明やアピールポイント等の記載が付加されている。

(2) 本件チラシ中の表現の著作物性

ア 原告は,本件チラシの表現のうち,①「検査時間 受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」や「検査なし スグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ)(上記(1)のア及びイ),②「コンタクトレンズの買い方比較」という表(同ア)及び③「なぜ検査なしで購入できるの?」という箇所における説明文言(同ア)の3点について,創作性があるとして,本件チラシに著作物性が認められると主張している。

イ しかし,まず上記①は,旧大阪駅前店において採用された眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができるという特徴を表現したものであり,眼科での受診(検査)が不要であると,検査時間や受診代金が不要となり,また検査が不要である結果,コンタクトレンズをすぐ買えることになると認められる。そして,上記①の宣伝文句は,以上のビジネスモデルによる顧客の利便性を消費者に分かりやすく表現しようとしたものと認められるが,不要になる事項を文字(単語)で抽出し,その文字(単語)の上に「×」を付すことはありふれた表現方法であるし,「検査なし スグ買える!」という表現は,眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店のビジネスモデルによる利便性を,文章を若干省略しつつそのまま記載したものにすぎず,そこに個性が現れているということはできない上に,強調したい部分に着色等したり,「!」を付したりするなどして強調することもありふれた表現方法にすぎない。以上より,上記①に創作性があるとは認められない。

また,上記②はマトリックスの表形式にすることによって,旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売方法との違いを分かりやすく表現したものである。確かに,表現方法としては文章で伝えるなどの別の方法が存することは原告主張のとおりであるが,本件チラシは販売宣伝のために作成されたものであるから,その性質上,表現が記載されるスペースは限られ,また見た者が一目で認識,理解し得るような表現をすべきことも求められるから,表現方法の選択の幅はそれほど広いとは認められない。

そして,文字で表現しようと思えばできる事項を表形式にまとめることは通常行われる手法であり(例えば,(証拠)の料金表,(証拠)の略歴の表,(証拠)の表,反訴状と題する書面の15頁の表,反訴状訂正申立書の1ないし2頁の表参照),表形式で比較するに当たり,縦の欄に旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売 方法を並べ,横の欄に複数の事項を列記し,マトリックス形式でまとめるというのも,ありふれた手法にすぎない(例えば,(証拠)の表,反訴状と題する書面の12ないし13頁の表2つ参照)。そしてまた,ここで比較の対象としている事項の選択も,眼科での受診(検査)を不要とし,店舗に来店して購入するという旧大阪駅前店でのビジネスモデルから自ずと導き出されるものばかりである。以上より,上記②に創作性があるとは認められない。

さらに,上記③の説明文言は,旧大阪駅前店では眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができる理由を文章で説明したもので,その内容は法規の内容や運用を説明した上で,旧大阪駅前店では,顧客の経済的・時間的な負担の観点から,販売時に処方箋の有無を前提としていないことを説明したものにすぎない。これは上記のビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したものにすぎず,文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない上,その記載方法も相当の文字数を使用して,しかも小さな文字で記載したものにすぎないから,その表現方法に何らかの工夫がみられるわけでもない。以上より,上記③に創作性があるとは認められない。

以上より,上記①ないし③の各記載について,創作性は認められない。

ウ 以上の点につき原告は,提携眼科を設けないでコンタクトレンズ販売店をオープンさせるというのは,かなり思い切った試みであったとか,検査なしでコンタクトレンズを購入できる理由を書いた説明文言は適法性を支える要素となっているなどと主張しているが,旧大阪駅前店におけるビジネスモデル自体が著作権による保護の対象になるわけではなく,そのビジネスモデルを表現した本件チラシにおける各表現方法自体がありふれたものにすぎないことなどは,上記認定・判示のとおりである。したがって,原告の上記主張によって,上記判断は左右されない。

(3) 本件チラシの各表現の組合せによる著作物性

原告は上記(2)の①ないし③等の組合せに著作物性が認められるべきであるとも主張している。

確かに,上記①ないし③は,眼科での受診(検査)を不要とし,コンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店でのビジネスモデルを強調するために,それが可能な理由等を小さな文字で説明する(上記③)とともに,当該ビジネスモデルによって不要となる事項を文字(単語)で抽出し,その上に「×」を付すなどしてキャッチフレーズを用いたり(上記①),マトリックスの表形式で他の店舗や他の販売方法と比較したりした(上記②)もので,それらを組み合わせることによって当該ビジネスモデルを強調し,読み手に分かりやすく説明しようとしたものということはできる。しかし,何かを強調し,分かりやすく伝えるために,説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は,特徴的な手法とは【認められず,組み合わせの具体的方法に特徴があるわけでもないから】,上記(2)で判示したとおり上記①ないし③の各表現に創作性が認められないことを踏まえると,これらの組合せ自体にも創作性は認められない。

なお,本件チラシでは,さらに視力検査をしている男の子のイラストが組み合わされているが,原告はイラスト自体の著作物性を主張するものではない上,広告宣伝において適宜関連するイラストを配することもありふれた表現方法にすぎないから,このイラストと組み合わせることによって,創作性が基礎付けられるとはいえない。

また,原告は当初,被告チラシの各商品の配列等が本件チラシとほとんど同一であることを主張していた。しかし,本件チラシにおいては商品の写真を掲げつつ,その下側に商品名や値段等を記載し,適宜商品の説明やアピールポイント等を付加しているところ,そのような各商品の配列等は,コンタクトレンズ販売店の広告としてありふれたものであると認められるから,創作性は認められず,原告の上記主張によって本件チラシの著作物性は基礎付けられない。

【なお,旧チラシは本件チラシとほぼ同一の内容であるから,本件チラシが著作物と認められないのと同じ理由で,旧チラシも著作物とは認められない。】

(4) 以上より,本件チラシに著作物性は認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,被告の行為に著作権・著作者人格権侵害が成立するとはいえない。したがって,被告の著作権・著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

[控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/