キャッチコピー(「会議が変わる。会社が変わる。」)の著作物性を否定した事例

 

▶令和3年3月26日東京地方裁判所[平成31(ワ)4521]▶令和3年10月27日知的財産高等裁判所[令和3(ネ)10048]

2 争点2(原告キャッチコピーに関する著作権侵害の有無)について

(1) 争点2-1(原告キャッチコピーの著作物性)について

ア 原告キャッチコピーの著作物性のうち,特に表現上の創作性に係る判断に関しては,前記1(1)アで説示したのと同様の判断枠組みによるのが相当であるから,以下,これに基づき,原告キャッチコピーの創作性について検討する。

イ(ア) 前記前提事実のとおり,原告キャッチコピーは,すごい会議の宣伝広告文言であるから,顧客の印象に残り,記憶されやすいよう,短く端的な表現が求められ,かつ,宣伝の効果がある用語を選択することが求められる。しかるところ,上記のように非常に限られた分量の表現の中で,キャッチコピーという広告媒体を用いて,上記のような用語を用いるなどして効果的にすごい会議の宣伝をしようとすれば,表現内容の点からしても選択の幅にはおのずから限りがある。

実際に,原告キャッチコピー(「会議が変わる。会社が変わる。」)は,句点を除き,わずか6文字からなる二つの文のみを組み合わせて表現されており,その長さ自体からして,他の表現を選択する余地は小さく,また,「会議」,「会社」及び「変わる」という,すごい会議を端的に宣伝する用語のみが用いられていることからも,表現の選択の幅が狭いものというべきである。

以上のように,原告キャッチコピーは,その分量の面と表現内容の面の両面から見て,表現の選択の幅が極めて小さいため,作成者の個性が表れる余地がごく限られているものというべきである。

なお,原告キャッチコピーは,第1文の「議」と第2文の「社」の部分を除き,同じ表現の文章を2回繰り返すという構成をとるものであり,全体としてリズミカルな語感を与えるものではあるが,このような構成を採用すること自体は,アイデアにすぎないというべきであり,直ちに表現の創作性を基礎づけるものではない。

(イ) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成15年6月に「会議が変われば,会社が変わる!」という文言を含む題名の書籍が刊行されたことが認められるところ,前記前提事実のとおり,すごい会議社の設立年月日が同年12月9日であること,(前提事実)のとおり,原告キャッチコピーの作成者がすごい会議社であることに照らすと,原告キャッチコピーが作成された時点において,原告キャッチコピーと同様の表現が既に用いられていたといえる。また,その他にも,「会議が変われば,仕事が変わる」と題する記事,「習慣を変えれば会議が変わる。会議が変われば会社が変わる?」と題する記事,「会議が変われば会社が変わる!~会議の質向上の秘訣」と題する記事がインターネット上に掲載されており,これらは,すごい会議社の設立前に存在したとは認められないものの,原告キャッチコピーと同様の表現が用いられていることを示す事情といえる。

なお,原告会社は,上記の書籍及び記事について,原告キャッチコピーの翻案権を侵害するものであると主張するものの,それらが原告キャッチコピーに依拠したものであることを認めるに足りる証拠はないから,その主張を採用することはできない。

そうすると,原告キャッチコピーはありふれた表現であるというべきである。

(ウ) 以上を総合すれば,原告キャッチコピーは,その表現の選択の幅が極めて狭いため,作成者であるすごい会議社の個性が表れているとは認め難く,仮に,それが認められるとしても,ありふれた表現であることから,創作性を認めることはできない。

ウ したがって,原告キャッチコピーは,「思想又は感情を創作的に表現」したものとはいえないから,「著作物」であるとは認められない。

(2) 小括

以上の次第で,その余の点について検討するまでもなく,原告キャッチコピーに係る著作権侵害に基づく原告会社の請求は理由がない。

[控訴審同旨]

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