廃墟写真(vs.廃墟写真)の侵害性(翻案性)が争点となった事例

 

▶平成22年12月21日東京地方裁判所[平成21(ワ)451]▶平成23年5月10日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10010]

[控訴審]

当裁判所も,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。

1 翻案権侵害を中心とする著作権侵害の有無について

(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる。本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。

(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,原告写真1は,群馬県松井田町に所在する国鉄旧丸山変電所の内部を撮影したものであるが,原告書籍1「棄景」が全体の基調としているように,モノクロ撮影を強調しハイコントラストにしたものである。控訴人がこれを翻案したと主張する被告写真1は,被告書籍1「廃墟遊戯」及び被告書籍4「廃墟遊戯-Handy Edition」に収録されているが,これら被告書籍が基調としているように,枯れ葉色をベースにしたカラー写真である。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。

しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない。

(3) 被告写真2と原告写真2の関係をみるに,両者とも,栃木県足尾町に所在する足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)を撮影したものであり,建物右下方向からの撮影であって構図の点では近似している。しかし,撮影対象が現に存在する建物跡であることからすると,たとえ構図において似ていても,写真において表現されている全体としての印象が異なっていれば,一方が他方の翻案に該当するものと認めることはできない。撮影時季が違うことは,特に原告写真2でセピア色の中で白色に特徴付けられて写真左下に写っているすすきが,建物の色感覚をそのまま撮影したであろうと印象付けられる被告写真2にはなく,その位置に緑色の植物が写っていることから明らかである。これらの印象の違いと撮影物の違いにかんがみると,被告写真2が原告写真2の翻案に当たるということはできない。

(4) 原告写真3と被告写真3は静岡県修善寺町所在の大仁金山付近の建物外観を撮影したものであり,原告写真4と被告写真4は東京都奥多摩町に所在する奥多摩ロープウェイの機械室内部を撮影したものであるが,いずれも現に存在する建築物の外観あるいは内部を撮影したものであって,撮影方向が違う以上,これら被告写真が原告写真の翻案に当たるということはできない。原告写真3と原告写真4は,モノクロないしセピア色を基調とした写真であり,特に原告写真4はコントラストの強さを持ったものであって,ほぼありのままを伝えようとする印象を持つ被告写真3,4にはない強いインパクトを与えるものとなっている。

原告写真5と被告写真5は,ともに秋田県大館市に所在する奥羽本線旧線跡の橋梁跡を撮影したものであるが,同様に現存する建築物を撮影したものであり構図も違うから,この点において既に被告写真5が原告写真5を翻案したものということはできない。

(5) 以上のとおり,翻案権侵害をいう控訴人の主張はいずれも理由がなく,そうである以上,被告写真1~5が掲載された被告各書籍の発行等について控訴人が主張する複製権,譲渡権,氏名表示権の侵害の主張も理由がない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/