観音像の仏頭部のすげ替えについて同一性保持権の侵害等が争われた事例 | 著作権コンサルタントが伝えたいこと

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観音像の仏頭部のすげ替えについて同一性保持権の侵害等が争われた事例

 

▶平成21年5月28日東京地方裁判所[平成19(ワ)23883]▶平成22年3月25日知的財産高等裁判所[平成21(ネ)10047]

E4(亡E2)が,美術の著作物である本件原観音像の著作者であること,E4が平成11年9月28日に死亡したこと,被告光源寺が本件原観音像を本件観音堂内に祀り,参拝者等の公衆の観覧に供していたこと,被告らが,E4の死後である平成15年ころから平成18年ころまでの間に本件原観音像の仏頭部をすげ替え,被告光源寺がそのすげ替え後の本件観音像を本件観音堂内に祀り,参拝者等の公衆の観覧に供していることは,前記争いのない事実等のとおりである。

本件原観音像は,木彫十一面観音菩薩立像であって,11体の化仏が付された仏頭部,体部(躯体部),両手,光背及び台座から構成されているところ,11体の化仏が付された仏頭部が,著作者であるE4の思想又は感情を本件原観音像に表現する上で重要な部分であることは明らかである。

そうすると,本件原観音像の仏頭部のすげ替えは,本件原観音像の重要な部分の改変に当たるものであって,E4の意に反するものと認められるから,本件原観音像を公衆に提供していた被告光源寺による上記仏頭部のすげ替え行為は,E4が存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条本文)に該当するものと認めるのが相当である。

 

[控訴審]

原告は,Rの遺族として,著作者であるRが存しなくなった後において,著作者が存しているとしたならばその著作者人格権(法20条及び113条6項所定の権利)の侵害となるべき行為を保護するために,①法112条,法115所定を根拠とする本件観音像を公衆の観覧に供することの差止請求,②法112条,法115条を根拠とする適当な措置請求としての原状回復請求,③法115条を根拠とする名誉声望回復のための謝罪広告請求(訂正広告請求を含む。)を求める(法20条,113条6項,116条1項,60条)。

これに対して,被告らは,①法20条1項所定のRの「意に反する・・・改変」に該当しない,及び法60条ただし書き所定のRの「意を害しないと認められる場合」に該当する,②法20条2項4号所定の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない・・・改変」に該当する,③法113条6項所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当しないなどと反論する。

当裁判所は,①被告光源寺による本件観音像の仏頭部のすげ替え行為は,著作者であるRが生存しているとしたならばその著作者人格権(同一性保持権,法20条)の侵害となるべき行為であり,②法113条6項[注:現11項。以下同じ]所定の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当し,侵害とみなされるべき行為であり,③法60条のただし書等により許される行為には当たらないと判断する。したがって,原告はRの遺族として,法116条1項に基づいて,法115条に規定するRの名誉声望を回復するための適当な措置等を求めることができると解される。そして,当裁判所は,すべての事情を総合考慮すると,法115条所定のRの名誉声望を回復するためには,被告らが,本件観音像の仏頭のすげ替えを行った事実経緯を説明するための広告措置を採ることをもって十分であり,法112条所定の予防等に必要な措置を命ずることは相当でないと判断するものである。

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