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総選挙の当落予想表の著作物性を認めた事例

 

▶昭和61年3月3日東京地方裁判所[昭和58(ワ)747]▶昭和62年02月19日東京高等裁判所[昭和61(ネ)833]

二 原告原稿[注:来るべき総選挙において全国130選挙区より立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下との意味で、○△▲の符号を付した原稿のこと]が原告著作にかかる著作物といえるかについて検討する。

原告原稿が著作物といえるためには、そのものが思想又は感情を創作的に表現したものであること、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであることが必要である(著作権法第2条第1項第1号)ところ、「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指すものと解され、「創作性」は、厳格な意味で独創性とは異り、著作物の外部的表現形式に著作者の個性が現われていれば十分であると解され、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属す」というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。

そうすると、成立に争いのない(証拠等)によると、原告原稿は、各立候補予定者氏名上に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下なる同種記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために、符号を付したものであり、原告の、知的精神活動の所産と解され、その表現形式に原告の個性が現われていると認められるから、原告著作にかかる著作物ということができる。

 

[控訴審]

二 まず、控訴人原稿が控訴人著作にかかる著作物といえるか否かについて検討する。

控訴人原稿が著作物といえるためには、それが「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であることが必要である(著作権法第2条第1項第1号)ところ、「思想又は感情」とは、人間の精神活動全般を指し、「創作的に表現したもの」とは、厳格な意味での独創性があるとか他に類例がないとかが要求されているわけではなく、「思想又は感情」の外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現われていれば足り、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」というのも、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、成立に争いのない(証拠等)によれば、控訴人は、株式会社政治広報センター(以下「政治広報センター」という。)発行、控訴人編著の「政治ハンドブツク」(昭和57年1月版)に記載されている、昭和55年6月22日に施行された第36回総選挙(衆議院議員)の結果分析(立候補者ごとの得票数、得票率、得票増減等)や政治広報センター備付のコンピユータによる判断結果を参考にし、控訴人自身の政治評論家としての知識、経験に基づいて、総選挙の立候補予定者につき当落の予想をしたが、立候補予定者名簿に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下という、同種の記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために○△▲の符号を付し、また、○の符号については「1」、△の符号については「1マイナス1」、▲の符号については「0プラス1」として換算し(したがつて、△と▲の合計が1となる。)、右により換算したものの和が各選挙区の定員数と同一となるように(ただし、宮城二区、山形二区、兵庫三区を除く。)、右各符号を付して控訴人原稿を完成したものであることが認められ、右認定事実によれば、控訴人原稿は、国政レベルにおける政治動向の一環としての総選挙の結果予測を立候補予定者の当落という局面から記述したもので、一つの知的精神活動の所産ということができ、しかもそこに表現されたものには控訴人の個性が現われていることは明らかであるから、控訴人の著作に係る著作物であると認めるのが相当である。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/