よく読まれています
法32条1項の趣旨と判断基準(論文(美術史)中の絵画の複製が問題となった事例)
▶昭和59年8月31日東京地方裁判所[昭和55(ワ)7916]▶昭和60年10月17日東京高等裁判所[昭和59(ネ)2293]
[控訴審]
二 そこで、控訴人主張の適法引用の抗弁について判断する。
1 著作権法第32条第1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定しているが、ここに「引用」とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録することであり、また「公正な慣行に合致し」、かつ、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ことという要件は、著作権の保護を全うしつつ、社会の文化的所産としての著作物の公正な利用を可能ならしめようとする同条の規定の趣旨に鑑みれば、全体としての著作物において、その表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること及び右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要すると解すべきである。
そして、右主従関係は、両著作物の関係を、引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘つて確定した事実関係に基づき、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観念に照らし、引用著作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められるかどうかを判断して決すべきものであり、このことは本件におけるように引用著作物が言語著作物(C論文)であり、被引用著作物が美術著作物(本件絵画の複製物)である場合も同様であつて、読者の一般的観念に照らして、美術著作物が言語著作物の記述に対する理解を補足し、あるいは右記述の例証ないし参考資料として、右記述の把握に資することができるように構成されており、美術著作物がそのような付従的性質のもの以外ではない場合に、言語著作物が主、美術著作物が従の関係にあるものと解するのが相当である。
控訴人は、本件の如く引用著作物が論文、被引用著作物が絵画である場合には、論文と絵画とは同一の性質を具有しないものであるのみならず、量的に比較しえないものであるから、その間の主従関係ははじめから成立する余地がなく、又はこれを問題にするのは適切ではなく、この場合の主従関係の要件は、引用に必要性及び必然性があることを要するとすることと実質的に同一であるというべく、したがつて、適法引用に該当するためには、引用著作物と被引用著作物とを明瞭に区別して認識できるような表現上の体裁をとることのほか、右の引用に必要性及び必然性があることを要し、かつ、必要最小限度の引用であることとの要件を具備しなければならないと主張する。
しかしながら、前述した主従関係は引用著作物が論文、被引用著作物が絵画である場合にも成立しうるものであり、また、主従関係の判断は、単に引用著作物と被引用著作物とを量的に捉えてなすべきものでないこと前述のとおりであるから、控訴人の主張は前提において失当であるし、また、著作者が著作に当たり、他の著作物の引用を必要とするかどうか、あるいは引用に必然性があるかどうかは、著作物が著作者の自由な精神的活動の所産であることからすれば、多分に著作者の主観を考慮してせざるをえないことになり、これを判断基準として採用することは客観性に欠ける結論に到達する虞れがあり、相当とはいえない。
また、控訴人が適法引用のもう一つの要件として主張する「最小必要限度の利用であること」は、その限度を著しく越える場合には、引用著作物の主体性、被引用著作物の付従性を失わせる場合があるという意味で、前述した主従関係の判断において考慮すれば足りることであつて、これをもつて別個の要件とすべき理由はない。
ところで、本件絵画がいずれも公表された著作物であることは当事者間に争いがないから、以下、本件書籍への本件絵画の複製物の掲載が著作権法第32条第1項の規定する要件を具備する引用に該当するか否かについて検討する。
(略)
4 以上を要するに、本件絵画の複製物はC論文に対する理解を補足し、同論文の参考資料として、それを介して同論文の記述を把握しうるよう構成されている側面が存するけれども、本件絵画の複製物はそのような付従的性質のものであるに止まらず、それ自体鑑賞性を有する図版として、独立性を有するものというべきであるから、本件書籍への本件絵画の複製物の掲載は、著作権法第32条第1項の規定する要件を具備する引用とは認めることができない。
【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/