出版権侵害を認めなかった事例

 

▶平成26年05月21日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10082]

(注) 以下、「本件評価書」とは、福島県知事に送付された、本件意見書を含む住民意見を抜粋ないし要約した記載のある「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業に係る環境影響評価書」のこと。

 

5 出版権侵害について

出版権者は,設定行為で定まるところにより,「頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利」を専有する(著作権法80条1項)。

ところで,前記「前提となる事実」のとおり,本件条例によれば,事業者は,対象事業に係る環境影響評価を行った後,準備書を作成し,準備書について環境の保全の見地から意見を有する者から意見書の提出を受けた場合には,これに配意して準備書の記載事項について検討を加えた上で,準備書に係る環境影響評価の結果に係る,①準備書の記載事項,②準備書に対して述べられた意見の概要,③知事の意見,④上記②及び③の意見についての事業者の見解を記載した評価書を作成し,知事に対して評価書等を速やかに送付するとともに,評価書を作成した旨等を公告し,評価書等を,公告の日から起算して1月間,縦覧に供しなければならないとされている。

そして,前記「前提となる事実」のとおり,被控訴人エコ・パワーは,本件条例に従い,原判決別紙のとおり本件意見書を含む住民意見を抜粋ないし要約した記載のある本件評価書を作成し,これを福島県知事に送付するとともに,本件評価書を公告し,これを縦覧に供したものである。

このように,被控訴人エコ・パワーは,本件評価書において,原著作物である本件意見書を「頒布の目的をもって」複製しているものではないし,「原作のまま」複製したものでもない。そうすると,本件評価書の作成やその縦覧のための複製によって,本件意見書について出版権侵害は成立しないというべきである。

したがって,控訴人が本件意見書の出版権を侵害された旨の主張は理由がない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/