法40条の類推適用を認めなかった事例

 

▶令和3年7月16日東京地方裁判所[令和3(ワ)4491]

(注) 原告は,別件の名誉毀損訴訟(「別件訴訟」)の訴訟代理人であり,被告は,同訴訟の被告の一人でもあるところ,被告は,原告に無断で,別件訴訟の第1回口頭弁論期日の前に,原告の作成した別件訴訟の訴状(「別件訴状」)を,自らのブログの記事内にそのデータファイルへのリンクを張る形で公表するなどした。

本件は,原告が,被告に対し,被告の上記行為は,別件訴状に係る原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するものであるとして,慰謝料等の支払を求めた事案である。

 

2 争点2(著作権法40条1項(政治上の演説等の利用)の類推適用又は準用の可否)について

(1) 著作権法40条1項は,「裁判手続(…)における公開の陳述は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる。」と規定しており,自由に利用することができるのは裁判手続における「公開の陳述」であるから,未陳述の訴状について同項は適用されない。

これに対し,被告は,訴状が裁判手続での陳述を前提に作成されるものであることなどを理由として,未陳述の訴状についても,同項が類推適用又は準用されると主張するが,裁判手続における公開の陳述については,裁判の公開の要請を実質的に担保するためにその自由利用を認めることにしたものと解すべきであり,かかる趣旨に照らすと,公開の法廷において陳述されていない訴状についてまでその自由利用を認めるべき理由はない。

(2) 被告は,未陳述の訴状を公表した場合であっても,公開の法廷における陳述を経た場合には,その瑕疵が遡及的に治癒されると主張するが,別件訴状が公開の法廷で陳述されることにより,それ以降の自由利用が可能となるとしても,それ以前に行われた侵害行為が遡及的に治癒され,原告の受けた損害が消失すると解すべき理由はない。

(3) 以上によれば,別件訴状の公表に著作権法40条1項が類推適用又は準用されるとの被告主張は採用し得ない。

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