企業情報(売上高等)を図表にしたもの(円グラフや棒グラフを含む。)の編集著作物性を否定した事例

 

▶平成22年6月17日東京地方裁判所[平成21(ワ)27691]▶平成23年3月22日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10059]

1 争点1(著作権侵害行為であるか否か)について

原告は,各原告図表は編集著作物(著作権法12条1項)又は創作性のあるデータベース(同法12条の2第1項)であり,著作物として保護される旨主張するので,まず,各原告図表が編集著作物に該当するか否かについて検討する。

なお,各原告図表は,月刊誌である「月刊ネット販売」2007年9月号の誌面上に掲載された図表であって,電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの(著作権法2条1項10号の3)ではないから,各原告図表がデータベースの著作物に該当する旨の原告の主張は失当である。

1)原告図表1

ア 原告図表1は,インターネットによる通信販売を実施する企業について,年間実績(平成18年6月から平成19年5月までの間に迎えた本決算期のインターネットによる通信販売の数値)として「PC+携帯売上高」,「増減率」,「携帯売上高」,「月間アクセス数」,「累積会員数」を,これらに加えて「決算期」と「主要商材」を,素材として選択し,上位150社を「PC+携帯売上高」の高い順に1位から順に縦に並べて配列し,各社ごとに,上記素材に係る数値や情報を横に並べて配列した図表のうち,1位から50位までの50社分の掲載部分である。

イ 証拠によれば,通信販売,通信教育,訪問販売等特定の業界について,これらの商取引を実施する企業や当該業界全体の売上高などの実態の把握や動向分析のために,各企業の「年間売上高」,「前年比」や「増減率」あるいは「増収率」,「決算期」,「主力商品」や「取扱商品」という素材を選択することは,原告図表1が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される(平成19年8月25日発行)以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。また,パソコンや携帯電話がインターネットを利用する際に用いる主要な道具であることに照らせば,インターネットによる通信販売を実施する企業において,年間売上高のうち「PC+携帯」の売上高(パソコン又は携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)は基本的な営業情報であるといえ,上記実態の把握や分析のために,これらの素材を選択することも,ありふれたものであったと認められる。

そして,上記証拠によれば,当該商取引を実施する企業を「売上高」の高い順に1位から順に縦に並べて配列し,各社ごとに,上記素材に係る数値や情報を横に並べて配列することは,原告図表1が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

したがって,原告図表1は,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるということはできない。

【ウ なお,控訴人は,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心として,横列(「増減率(%)」,「携帯売上高(百万円)」,「月刊アクセス数(PV:万)」,「累積会員数」,「決算期」,「主要商材」)を有機的に結び付けた図表は類例がなく,控訴人の創作性の表れであると主張する。

しかし,通信販売中,パソコン及び携帯とに限定した項目を中心とした図表がこれまで存在しなかったとしても,インターネットによる通信販売を実施する企業において,「PC+携帯」の売上高(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)が基本的な営業情報であることに照らせば,「PC+携帯」(パソコン及び携帯電話を経由した売上高)や「携帯」の売上高(携帯電話を経由した売上高)という項目を図表の中心として選定することは,特段の創意工夫なくなしうるありふれた発想に基づくものというべきであって,創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。】

(2)原告図表2

ア 原告図表2は,EC(電子商取引)上位150社の商品ジャンル別の売上高シェア(占有率)について,「総合」,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「食品」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」,「通教」,「家具」,「その他」という商品ジャンルに分類して(素材を選択し),これらを全体に占める割合(%)に応じて円グラフとして配列した図表である。

イ 証拠によれば,通信販売,通信教育,訪問販売等において,これらの商取引を実施する企業の取扱商品のジャンルについて,「総合」,「通信教育」,「化粧品・健康食品」,「衣料・家具」,「家電」,「パソコン」,「食料品」,「衣料品」,「生活雑貨」,「オフィス用品」などの分類を用いること(素材を選択すること)は,原告図表2が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。また,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」のように,類似する,あるいは,関連性のある複数の商品を同一の商品ジャンルとしてまとめて分類することは,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

そして,商品ジャンル別の売上高シェア(占有率)を示すに当たり,全体に占める割合(%)に応じて円グラフとして配列することは,情報の一覧性を高める手法として,原告図表2が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

したがって,原告図表2は,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるということはできない。

【ウ なお,控訴人は,各メディアの各図表は各特徴を有しているところ,それらの図表は控訴人の分類とは異なっており,この特徴こそが各作成者の創作性であるなどと主張する。

しかし,控訴人作成に係る原告図表2と同一の分類が存在しなかったとしても,「衣料品・雑貨」,「化粧品・健食」,「PC・家電製品」,「書籍・CD・DVD」のように,通信販売の対象商品を上記のように分類することはありふれた発想であり,創作性があるとは認めがたい。控訴人の上記主張は採用することができない。】

(3)原告図表3

ア 原告図表3は,2005年度(平成17年度)と2006年度(平成18年度)の「BtoC-EC市場」(消費者向け電子商取引市場)における業種別の売上高について,「総合」,「衣料・アクセサリー」,「食料品」,「自動車・パーツ」,「家具・家庭用品」,「電気製品」,「医薬化粧品」,「スポーツ・本・音楽・玩具」という業種に分類し(素材を選択し),各業種ごとに,2005年度(平成17年度)と2006年度(平成18年度)の売上高を数値及び棒グラフとして配列した図表である。

イ 証拠によれば,原告図表3は,平成19年5月に経済産業省が公表した「『平成18年度電子商取引に関する市場調査』の結果公表について」と題する資料の「補足説明」8頁に掲載された図表7「日本における業種別2006年BtoC-EC市場規模の推移」の「小売」の欄に記載された業種分類と全く同一の分類を利用するとともに,各業種ごとの2005年(平成17年)と2006年(平成18年)の電子商取引市場規模の各数値についても,ほぼ,そのまま利用したものと認められ,素材の選択に創作性を認めることはできない。

そして,年度ごとの売上高の数値を示すに当たり,棒グラフとして配列することは,情報の一覧性を高める手法として,原告図表3が「月刊ネット販売」2007年9月号に掲載される以前から,一般に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。

したがって,原告図表3は,素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるということはできない。

(以下略)

[控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/