著作者名の表示の省略(法19条3項)を認めなかった事例

 

▶平成23年7月29日東京地方裁判所[平成21(ワ)31755]▶平成24年1月31日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10052]

(2) 氏名表示権侵害の成否

ア 本件画像が本件入れ墨の複製物と認められることは,上記(1)アに説示したとおりであり,本件画像が掲載された本件表紙カバー,本件扉及び本件表紙カバーの写真を掲載した本件各ホームページには,いずれも本件入れ墨の著作者である原告の氏名が表示されていないことは当事者間に争いがない。

そして,被告Yは本件書籍を執筆するに際し,被告H社は本件書籍を発行するに際し,本件画像を上記のとおり本件表紙カバー及び本件扉に掲載したものであるから,共同して本件画像を公衆に提供したものと認められる。また,被告Yは本件ホームページ1に本件表紙カバーの写真を掲載したものであり,被告本の泉社は本件ホームページ2に本件表紙カバーの写真を掲載したものであり,いずれも本件画像を公衆に提示したものと認められる。

イ 被告らは,上記各掲載について,著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると主張し,その理由として,①本件書籍における本件入れ墨の利用目的は,本件入れ墨の芸術的価値を付加することによって本件書籍の価値を高めることにあったのではなく,かえって,被告Yがその人生の中で特定の女性に対する強い心情から痛苦に耐えて本件入れ墨を施したことを記し,その人生の集約又は象徴として本件入れ墨を表出したものであること,②本件画像は原告から無償譲渡された写真によるものであって,原告もその合理的範囲における利用をあらかじめ容認していたこと,③執筆の中に,その内容の集約又は象徴として絵画,写真などを掲載することは,公の慣行に属し,特に著作者名を表示しなければ著作者の利益を害すると認められる場合でない限り,著作者名を省略することが許容されるべきであり,本件は正にこれに該当することなどを挙げる。

しかしながら,本件書籍において,本件入れ墨は,表紙カバー及び扉という書籍中で最も目立つ部分において利用されていること,本件表紙カバー及び本件扉は,いずれも本件入れ墨そのものをほぼ全面的に掲載するとともに,「合格!行政書士 南無刺青観世音」というタイトルと相まって殊更に本件入れ墨を強調した体裁となっていることからすれば,読者の本件書籍に対する興味や関心を高める目的で本件入れ墨を利用しているものと認められ,本件入れ墨の利用の目的及び態様に照らせば,著作者である原告が本件入れ墨の創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認めることはできない。

また,原告が本件画像の基となる写真を被告Yに対し無償で譲渡していたとしても,それだけで原告が本件入れ墨の利用を許諾していたものと認めることはできず,ほかに原告が被告らによる本件入れ墨の利用を許諾していたことを認めるに足りる証拠はない。

さらに,書籍中に入れ墨の写真を掲載するに際し著作者名の表示を省略することが公正な慣行に反しないと認めるに足りる証拠はない(竹書房平成14年4月1日発行の雑誌「月刊実話ドキュメント」同年4月号に掲載された入れ墨の写真には,彫物師の屋号が表示されていることが認められる。)。

したがって,被告らによる上記各掲載が著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると認めることはできず,被告らの上記主張は採用することができない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/