大腿部に施した十一面観音立像の入れ墨の著作物性を認めた事例

 

▶平成23年7月29日東京地方裁判所[平成21(ワ)31755]▶平成24年1月31日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10052]

(3) 本件仏像写真と本件入れ墨との対比

本件仏像写真は,本件仏像の全身を向かって左斜め前から撮影したカラー写真であり,本件仏像の表情や黒色ないし焦げ茶色の色合いがほぼそのままに再現されている。

これに対し,本件入れ墨は,本件仏像写真をモデルにしながらも,本件仏像の胸部より上の部分に絞り,顔の向きを右向きから左向きに変え,顔の表情は,眉,目などを穏やかな表情に変えるなどの変更を加えていること,本件仏像写真は,平面での表現であり,仏像の色合いも実物そのままに表現されているのに対し,本件入れ墨は,人間の大腿部の丸味を利用した立体的な表現であり,色合いも人間の肌の色を基調としながら,墨の濃淡で独特の立体感が表現されていることなど,本件仏像写真との間には表現上の相違が見て取れる。

【さらに,本件仏像写真の仏像と本件入れ墨の仏像のそれぞれの顔を対比すると,両者には,以下のとおりの表現上の相違も認められる。すなわち,本件仏像写真の仏像の顔では,その眼は,中央からゆるやかな弧を描くように上向きに表現されていること,鼻は,直線的に細長く表現されていること,唇は,上唇の中央部を切り結び,引き締まったような表情で表現されていること等の点において特徴がある。

これに対して,本件入れ墨の仏像の顔では,眼は,ほぼ水平方向に描かれていること,鼻は,横に広くふくらみをもった形状に表現されていること,唇は,上唇が厚くふくらみをもって表現されていること,頬や顎は,前記のとおり,墨の濃淡により,丸みを帯びるような表現がされていること等の点において特徴がある。】

そして,上記表現上の相違は,本件入れ墨の作成者である原告が,下絵の作成に際して構図の取り方や仏像の表情等に創意工夫を凝らし,輪郭線の筋彫りや描線の墨入れ,ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し,技法を凝らして入れ墨を施したことによるものと認められ,そこには原告の思想,感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって,本件入れ墨について,著作物性を肯定することができる。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/