映画に係る完成作品及びその映像素材のデータの廃棄による監督脚本家の人格権侵害の成否

 

▶令和4年7月29日東京地方裁判所[令和2(ワ)22324]▶令和5年2月7日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10090等]

10 争点6(本件データ等の廃棄による原告X1の人格権侵害の成否)

原告X1は、被告O映画らが本件データ等[注:本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータのこと]を廃棄した行為につき、本件映画が原告X1の人格、思想及び表現を具現化したものであり、原告X1にとって唯一無二の作品であるのに、本件映画の公開を永久に不可能にするものであることを踏まえると、原告X1の人格そのものを否定する人格権侵害に当たり、原告X1に対する不法行為を構成する旨主張する。

【しかしながら、本件データ等は、本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータであり、その内容に照らすと、本件データ等の中には、著作物たる本件映画の全部又は一部を構成するものも含まれると認められる。そして、本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等についてみると、前記前提事実のとおり、控訴人X1は、本件映画と共にその著作権を被控訴人P映画に譲渡している以上、もはや本件映画を利用する権利を有しておらず、加えて、被控訴人O映画らが私企業であり、上映すべき映画、保存すべき映画等についての選択の自由を有しているものと解されることにも照らすと、被控訴人O映画らが本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等を廃棄したとしても、控訴人X1が本件映画の著作権に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、当該廃棄によりこれが侵害されるということにはならない。また、前記前提事実によると、控訴人X1が被控訴人P映画に対して本件映画を譲渡した結果、本件データ等に係る所有権その他の権利は、被控訴人P映画に原始的に帰属することになるのであり、加えて、被控訴人O映画らが上記の選択の自由を有しているものと解されることも併せ考慮すると、この点からも、控訴人X1が本件データ等に係る所有権その他の権利に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、被控訴審O映画らが本件データ等を廃棄したことによりこれが侵害されるということにはならない。】

したがって、原告X1の主張は、採用することができない。

[控訴審同旨]

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