ノースリーブのランニングシャツの花柄刺繍部分及びその全体デザインの著作物性を否定した事例

 

▶平成29年1月19日大阪地方裁判所[平成27(ワ)9648等]

(2) 証拠によれば,原告商品2の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品2全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。

ところで著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条),その保護対象である著作物につき,同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨を規定し,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。その一方で,美術工芸品が含まれ得る実用に供され,産業上利用することのできる意匠については,別途,意匠法において,同法所定の要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると,純粋美術ではない,いわゆる応用美術とされる,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。

(3) 以上を踏まえて原告商品2についてみると,原告商品2の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品2全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品2を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。

したがって,原告商品2は,著作権法2条1項1号にいう「著作物」と認められないから,原告商品2が著作物であり著作権が認められることを前提として著作権侵害をいう原告の主張が採用できないことは明らかである。

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