私人の逮捕動画を無断でYouTubeに投稿公表する行為を名誉権、肖像権及びプライバシー権侵害と認定した事例

 

▶令和4年10月28日東京地方裁判所[令和3(ワ)28420]▶令和5年3月30日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10118等]

3 争点2(本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否)について

⑴ 肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当である(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決、最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決、最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、①撮影等された者(以下「被撮影者」とういう。)の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

⑵ これを本件についてみると、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画の内容は、白昼路上において原告の容ぼう等が撮影されたものであるから、公的領域において撮影されたものと認められる。そして、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。そうすると、本件逮捕動画の内容が社会通念上受忍すべき限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。

したがって、本件逮捕動画を原告に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる。

これに対して、被告は、肖像権侵害を否定する事情を縷々主張するが、本件逮捕動画の内容に照らし、原告は白昼路上で逮捕され手錠まで掛けられた姿を公に晒されているのであるから、これが原告の名誉感情を侵害し受忍限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。

【(3) また、本件逮捕動画は、一審原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたなどという事実を摘示するものであり、また、氏名等は明らかにされてはいないものの、その容ぼうや音声に加工等の処理がされていないものであり、一審原告の容ぼう等を知る者には逮捕されている人物が一審原告と同定可能なものとなっているところ、一般に、警察官に逮捕された事実は、その者の名誉や信用に関わる事項であるから、そのような事実はみだりに第三者に公表されないことについて法的利益を有するものである。そして、こうした事実を公表することが不法行為を構成するか否かについては、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する利益を比較衡量し、前者が後者に優越する場合には不法行為を構成するものと解するべきである(最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決参照)。

これを本件についてみると、本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というタイトル名であるが、その内容から一審原告が警察官によって不当逮捕されたという事情は明らかではなく、むしろ、一審原告が警察官に逮捕されている状況(本件状況)を面白おかしく編集の上、不特定多数の者が閲覧可能なYouTube に投稿されたものであることは前記のとおりである。そうすると、一審原告が警察官に逮捕されたという事実を公表されない利益がこれを公表する利益を優越するものとは到底認められないから、本件逮捕動画をYouTubeに投稿して公表する行為は、一審原告のプライバシー権を侵害するものであり、不法行為を構成するものというべきである。

(4) 以上によれば、一審被告による本件逮捕動画の投稿は、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであって、不法行為を構成するというべきである。】

[控訴審同旨]

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