ファッションショーの映像の公衆送信権の侵害性が問題となった事例

 

▶平成25年07月19日東京地方裁判所[平成24(ワ)16694]▶平成26年8月28日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10068]

(1)ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。

イ また,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが必要となる。

本件において,原告らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要となる。

ウ 原告らがどのような権利につき侵害を主張する趣旨であるかについては明確ではない点があるが,本件番組の放送により,原告会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)及び著作隣接権(放送権・同法92条1項)(いずれも,原告会社が原告Aから譲渡を受けたと主張するもの。)並びに原告Aの著作者及び実演家としての氏名表示権(著作者としての氏名表示権につき同法19条1項,実演家としての氏名表示権につき同法90条の2第1項)が侵害されたと主張する趣旨であると解される。このうち,公衆送信権侵害が認められるためには,「その著作物について」公衆送信が行われることを要するのであるから(同法23条1項),上記公衆送信は,当該著作物の創作的表現を感得できる態様で行われていることを要するものと解するのが相当である。そして,当該著作物の創作的表現を感得できない態様で公衆送信が行われている場合には,当該著作物について公衆送信が行われていると評価することができないとともに,「その著作物の公衆への提供若しくは提示」(同法19条1項)がされているものと評価することもできないから,公衆送信権侵害及び著作者としての氏名表示権の侵害は,いずれも認められないものというべきである。

エ 以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。

(以下略)

 

[控訴審同旨]

(1)ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。

そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。

イ また,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが必要となる。

本件において,控訴人らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要となる。

ウ もっとも,本件ファッションショーにおいて用いられた衣服やアクセサリーは,主として,大量生産されるファストファッションのブランドのものであり,これらは,その性質上,実用に供される目的で製作されたものであることが明らかである。そして,控訴人らも,本件ファッションショーにつき,シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートと,リゾートラグジュアリーパーティースタイル)をコンセプトとしたものであるなどと主張しており,本件ファッションショーが上記の各場面における実用を想定したファッションに関するショーであることがうかがえることに照らすと,上記の化粧,髪型,衣服及びアクセサリーを組み合わせたものである前記イ記載の①,②,③及び⑥(⑥については,ポーズ及び動作の部分を除く。)は,美的創作物に該当するとしても,芸術作品等と同様の展示等を目的としたものではなく,あくまで,実用に供されることを目的としたものであると認められる。

そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物(いわゆる応用美術)が美術の著作物に該当するかどうかについては,著作権法上,美術工芸品が美術の著作物に含まれることは明らかである(著作権法2条2項)ものの,美術工芸品等の鑑賞を目的とするもの以外の応用美術に関しては,著作権法上,明文の規定が存在せず,著作物として保護されるか否かが著作権法の文言上明らかではない。

この点は専ら解釈に委ねられるものと解されるところ,応用美術に関するこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁の判例(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)によれば,まず,上記著作権法2条2項は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである。また,著作権法2条1項1号の上記定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。

他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,上記2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはできないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解すべきである。

エ 以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。

(以下略)

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/