年度版用語辞典の編集著作物性及び編集著作者性

 

▶平成10年05月29日東京地方裁判所[平成7(ワ)5273]▶平成11年10月28日東京高等裁判所[平成10(ネ)2983]

三 原告の編集著作権について

そこで、本件知恵蔵につき、原告に編集著作物の著作者としての権利が認められるか否かを検討する。

1 著作権法12条1項は、「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と規定し、旧著作権法のように著作物が利用されることを編集著作物の保護の要件としていず、事実やデータ等の著作物でないものも、編集物の素材となることを前提としている。しかしながら、そのことから、編集著作物の複製物、例えば書籍に具体的に記載、表現されているものの全てが選択、配列の創作性が問題となる素材となり得るものではない。

即ち、素材の選択又は配列に創作性の認められる編集物が著作物として保護されるのは、素材の選択又は配列に著作者の個性が何らかの形で現れていれば、当該編集物としての思想又は感情の創作的表現が認められるためであると解されるところ、具体的な編集物に記載、表現されているものの内、その選択、配列の創作性が問題とされる素材が何であるか、どのような意味での選択、配列の創作性が問題となるかは、当該編集物の性質、内容によって定まるものである。

2 前記二のとおり、本件知恵蔵は、今日の社会において用いられている用語の意味内容を分野毎に解説することを目的とした年度版用語辞典であって、その性質、目的からみて、数多ある用語の中から選択された用語とその解説が収集され、これを、経済、政治等の大分類の中の貿易、日本経済、財政、あるいは国会、内閣・行政、地方自治、外交、防衛等の一定の分野毎に、かつ、各分野の中では「新語話題語」及び「用語」欄に分け、「用語」欄は更に中分類して配列されるとともに、これを補足、説明する「F情報」や図表・写真、これらの用語の背景となった社会の傾向の解説記事(「ニュートレンド」)が選択配列されている点に、本件知恵蔵の編集著作物としての創作性が存在すると認められる。してみると、本件知恵蔵の創作的選択及び創作的配列の対象となった素材は、あくまで、右「新語話題語」及び「用語」欄に記載された用語とその解説、「F情報」の記述、図表・写真及び「ニュートレンド」の記述であると解するのが相当である。

 

[控訴審同旨]

二 編集著作権に基づく請求について

1 著作権法にいう著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであるが、控訴人が知恵蔵の素材であると主張する柱、ノンブル、ツメの態様、分野の見出し、項目、解説本文等に使用された文字の大きさ、書体、使用された罫、約物の形状などが配置される本件レイアウト・フォーマット用紙及び控訴人が知恵蔵の素材であると主張する柱、ノンブル、ツメの態様、分野の見出し、項目、解説本文等に使用された文字の大きさ、書体、使用された罫、約物の形状は、編集著作物である知恵蔵の編集過程における紙面の割付け方針を示すものであって、それが知恵蔵の編集過程を離れて独自の創作性を有し独自の表現をもたらすものと認めるべき特段の事情のない限り、それ自体に独立して著作物性を認めることはできない。控訴人の主位的請求原因が、1994年版と1995年版の知恵蔵に使用されたレイアウト・フォーマット用紙は控訴人が制作を担当した本件レイアウト・フォーマット用紙の複製であることを前提とするものである以上、控訴人の主張も、本件レイアウト・フォーマット用紙が、そのまま知恵蔵以外の他の書籍、特に被控訴人以外の出版社刊行の書籍に使用されるものであることを前提にしているものでないことは明らかである。

(注)「柱」とは、版面の周辺の余白に印刷した見出しを意味する。「ノンブル」とは、頁数を示す数字を意味する。「ツメ」とは、検索の便宜のために辞書等の小口に印刷する一定の記号等を意味する。「約物」とは、文字や数字以外の各種の記号活字の総称を意味する。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/