著作者の名誉又は声望を害する利用行為(法113条11項)に当たらないとされた事例

 

▶平成14年07月16日東京高等裁判所[平成14(ネ)1254]

4 著作者の名誉又は声望を害する利用行為の有無について

被控訴人は,甲1部分において平成4年当時の最新情報として記載したことが,控訴人らによって,平成11年4月に出版された甲2書籍の甲2部分においても,そのまま掲載されており,このことは,被控訴人の社会的評価を低下させるものであり,甲1部分の一部の著作者である被控訴人の名誉又は声望を害する方法によりその著作物が利用されたものである,と主張し,原判決は,これを著作権法113条5項[注:現11項。以下同じ]の「著作者の名誉又は声望を害する著作物の利用行為」に当たると認定した。しかし,当裁判所は,本件については,次に述べる理由により,控訴人らの上記行為は,同項の「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」には当たらない,と判断する。

(略)

しかし,著作権法113条5項に規定されている「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」とは,著作者の創作意図を外れた利用をされることによって,その著作物の価値を大きく損ねるような形で利用されることをいう,と解するのが相当である(本件に即していえば,教科書的書籍である甲1書籍を,全く別な目的で利用し,その著作物の価値を大きく損なうような場合が考えられる)。これに対し,上記のような著作物の利用行為は,甲2書籍を甲1書籍と同様に教科書的な書籍として利用しようとするものであり,しかも,甲1書籍の出版後6年近く経過したため,大学関係者による改訂作業により古くなった内容を改めたものが甲2書籍であるから,その改訂された甲2書籍の表現の一部に原著作者である被控訴人の意に添わない部分があったとしても,これは,上記規定が想定している場合には該当しないというべきである。これは,むしろ,被控訴人が,その著作部分について,無断で改訂版を出版され,その氏名表示権及び同一性保持権を害されたことによる損害の中の一事情として考慮されれば足りる範囲の事柄であって,これをもって,著作者の名誉又は声望を害する著作物の利用行為とすることまではできないというべきである。

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