名誉声望権侵害(法113条11項)を認めなかった事例

 

▶平成28年8月19日東京地方裁判所[平成28(ワ)3218]▶平成29年1月24日知的財産高等裁判所[平成28(ネ)10091]

3 争点(1)ウ(名誉・声望権侵害の成否)について

この点に関し,原告は,被告記事の中に「それにもかかわらず,未だ東京国際映画祭は批判の格好の的になっており,映画祭に対する厳しい批判は毎年の恒例行事のようなものになっている。そして,今回それを行ったのが映画プロデューサーの甲であった」として原告記事を紹介していることが,日本の映画産業発展のための生産的議論にすることを目的とした原告の意図と著しく異なる意図を持つものとして受け取られる可能性があることを理由として,原告の名誉・声望権を侵害すると主張する。

しかし,著作権法113条6項[注:現11項]の「名誉又は声望を害する方法」とは,単なる主観的な名誉感情の低下ではなく,客観的な社会的,外部的評価の低下をもたらすような行為をいい,対象となる著作物に対する意見ないし論評などは,それが誹謗中傷にわたるものでない限り,「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとはいえないというべきところ,原告が指摘する被告記事の上記表現部分は,被告記事の著者の原告記事に対する意見ないし論評又は原告記事から受けた印象を記載したものにすぎず,原告又は原告記事を誹謗中傷するものとは認められないから,たとえ,被告記事の表現によって,原告の意図と著しく異なる意図を持つものとして受け取られる可能性があるとしても,そのことをもって,原告の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」と認めることは相当でないというべきである。

したがって,被告記事によって,原告記事に係る原告の名誉・声望権が侵害されたということはできない。

 

[控訴審同旨]

しかしながら,著作物に対する意見ないし論評などは,それが誹謗中傷にわたるものでない限り,著作権法113条6項[注:現11項]の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとはいえないところ,被控訴人記事が控訴人又は控訴人記事を誹謗中傷するものとは認められないことは,前記引用の原判決が認定説示するとおりである。

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