書籍の題号『時効の管理』の著作物性が争点となった事例

 

▶平成20年5月29日大阪地方裁判所[平成19(ワ)14155]▶平成20年10月08日大阪高等裁判所[平成20(ネ)1700]

時効は,民法第一編第七章に規定されている法令用語であって,時効に関する法律問題を論じようとする際には不可避の用語である。昭和63年よりも前から「管理」とは,「①管轄し処理すること。とりしきること。②財産の保存・利用・改良を計ること。→管理行為。③事務を経営し,物的設備の維持・管轄をなすこと。」(新村出編・広辞苑第3版(岩波書店,昭和58年))という意味で日常よく使用される用語であったこと,及び保存行為,利用行為及び改良行為を併せて管理行為と呼び,保存行為には消滅時効の中断が含まれるとする見解が法律学上有力であったことは当裁判所に顕著である。また,昭和63年より前の民法でも「共有物ノ管理」(平成16年法律第147号による改正前の民法252条),「事務ノ管理」(同法697条1項)という用語も用いられている。

そうだとすると,「時効の管理」は,時効に関する法律問題を論じようとする際に不可避の用語である「時効」に,日常よく使用され,民法上も用いられている用語である「管理」を,間にありふれた助詞である「の」を挟んで組み合わせた僅か5文字の表現にすぎない。しかも「の管理」という表現も民法に用いられるなどありふれた表現である。以上のことからすれば,「時効の管理」は,ありふれた表現であって,思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。

 

[控訴審同旨]

控訴人は,知的活動が行われたと言えないような事実を述べた記述のみがありふれた表現として創作性を否定され,表現に表現者の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ,新規性や独創性までは要しないと解すべきところ,「時効の管理」という表現は,時効について権利義務の一方当事者が主体的にこれを管理しコントロールすべきであるとの視点から再認識した思想を創作的に表現したものであり,文章を細分化すると表現者の個性・思想が失われるから,表現者がまとまった物として表現したものをそのままの形で取り上げて創作性を判断すべきであって,「時効」と「の管理」に分断して創作性を判断すべきでないと主張する。しかし,上記引用に係る原判決認定・説示のとおり,「時効」は時効に関する法律問題を論じる際に不可避の法令用語であり,「管理」は日常よく使用されて民法上も用いられている用語であり,「時効の管理」という表現はこの2語の間に助詞である「の」を挟んで組み合わせた僅か5文字の表現であり,控訴人書籍Aの発刊以前から時効に関する法律問題を論じる際に「消滅時効の管理」・「時効管理」といった表現が用いられていたものであるから,「時効の管理」はこれを全体として見てもありふれた表現であるというべきである上,「時効の管理」という表現が「時効について権利義務の一方当事者が主体的にこれを管理しコントロールすべきであるとの視点から再認識した思想」を表現したとまでは理解できず,単に「時効を管理する」という事物ないし事実状態を表現しているとしか理解できないのであって,「時効の管理」という表現は思想又は感情を創作的に表現したものと認められない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/