アマゾンに対する著作権侵害の申告が問題となった事例(不正競争事例)

 

▶令和5年5月11日大阪地方裁判所[令和3(ワ)11472] ▶令和6年1月26日大阪高等裁判所[令和5(ネ)1384等]

(5) 一審被告による本件各申告の違法性ないし故意・過失の有無

ア 本件各申告は、アマゾンがあらかじめ設けている知的財産権侵害を申告するための侵害通知フォームを利用して行われたものであるところ、同フォームにおいては、申告者において、申告した画像や商品が申告者又は権利所有者の権利を侵害する客観的根拠があり、かつ違法であることを確信していること、当該申告に含まれる情報が正しくかつ正確であることを表明・保証することに同意した上で権利侵害申告を行うものとされている。そして、アマゾンに対する権利侵害申告がされた場合には、アマゾンによって申告対象のコンテンツが削除されるなどしてアマゾンサイトへの出品自体が停止され、当該出品者が直接的に経済的損害を被ることがあることが明らかであるから、侵害通知フォームによって著作権についての権利侵害申告をする者には、権利侵害申告をするに当たり、権利侵害の客観的根拠があり、かつ違法であることについて調査検討すべき注意義務を負っていると解すべきである。

これに対し、一審被告は、著作物かどうかの判断は困難なものであり、これを正確に行ってアマゾンに申告することが求められるとすれば、その権利行使を不必要に委縮させるから、本件において、結果的に被告各画像等に著作物性がないとされた場合であっても、不競法2条1項21号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては、諸般の事情を考慮して違法性や故意・過失の有無を判断すべきであると主張する。しかし、上記のとおり、権利侵害申告をする者に対しては、侵害通知フォーム所定の同意事項の同意を義務付けることで明確に上記注意義務が課せられ、これに反した場合に被申告者に損害が発生することも容易に予見できることであるから、著作権侵害という法的判断を伴う事実を申告する以上、著作物性の判断が困難であるのであれば専門家に問い合わせることも検討されるべきであって、その判断のための調査検討を怠って虚偽の事実の申告となる権利侵害申告をすることが許されるわけではなく、一審被告の上記主張は採用できない。

イ 以上を前提に検討するに、本件において、一審被告が著作権を有するとして本件各申告をした被告各画像のうち、被告画像3を除く平面的な被写体を忠実に再現しただけの写真といえる被告画像は、前記(3)アのとおり、いずれも著作物性が認められないところ、この種の写真に著作物性が認められないことは過去の裁判例において明らかにされ、これについては一般に異論も見られないところであるから、控訴人が著作物性判断のため著作権について調査検討したのであれば、上記被告画像が著作物といえないことは容易に明らかになったことといえる。

また、被告画像3は、著作物性が肯定されるものの、前記(4)のとおり、原告画像3は被告画像3とは、商品の見せ方というアイデアで共通点があるにすぎず、表現における類似性がないことは明らかであるから、原告画像3をもって、被告画像3について一審被告が有する著作権の侵害物とはいえないところ、このようにアイデアで共通していても表現で異なる場合に著作権侵害をいえないことは、著作物性についてみたと同様、著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえる。

さらに、被告サイト上の一審被告が付したとする商品名は、前記(3)イのとおり、いずれも本件各商品自体に印刷された商品名の表記を変え、本件各商品の特徴をありふれた表現で付記するなどしたものにすぎず、およそ著作物性が肯定される余地のないものであり、この点も、上記被告各画像についてみたと同様、著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえる。

そうすると、一審被告がアマゾンに対して原告サイト上に掲載された原告各画像及び商品名が一審被告の著作権を侵害している旨申告すること(本件各申告)が虚偽の事実の告知に当たることは、一審被告がその申告をするに当たり必要な調査検討をすれば容易に明らかになったといえるにもかかわらず、一審被告がこれについて調査検討した様子はうかがわれず、漫然と本件各申告をしたものと認められるから、一審被告は、権利侵害申告に当たって求められる前記注意義務を怠ったものというべきである。

ウ そして、本件各申告がなされた経緯についてみると、一審被告は、本件申告1及び2を行った後、一審原告から、同各申告についてどのような点で著作権侵害との判断をしたのか問い合わせるメールを受けたにもかかわらず、これに何ら返信することなく本件申告3ないし5を行い、再度一審原告から上記同様の問い合わせのメールを受け、さらに、一審原告代理人弁護士から上記各申告に係る著作権侵害は存在しないとの内容証明郵便による通知さえも受けたにもかかわらず、専門家に問い合わせるなどして著作権侵害の有無について然るべき調査検討をしようとしないばかりか、何ら回答せずに無視して、なお続けて本件申告6ないし10を行ったというのである。一審被告が本件各申告を行うに当たっては、侵害通知フォーム上において、「問い合わせ先情報」として一審被告の連絡先が申告の相手方(一審原告)に共有される旨が明らかにされており、一審原告から問い合わせ等があった場合にはこれに適切に対応すべきことが予定されていたのであり、現に、アマゾンにおいても、一審原告に対して、権利者が誤って通知を送信したと考えられる場合は権利者に連絡して通知取り下げの申請を依頼するよう通知していたというのに、一審被告は一審原告からの度重なる問い合わせ等に対して一切の対応をしないまま、上記経緯のとおり本件各申告を繰り返したというのであるから、その申告態様からして、一審被告は、著作権の正当な権利行使の一環として本件各申告をしたのでなく、むしろアマゾンサイト上で競争関係にある一審原告の出品を妨害することによって自己が営業上優位に立とうとして本件各申告をしたことがうかがわれるというべきである。

エ これに対し、一審被告は、当初、アマゾンに対して一審原告によるASINの重複と被告各画像等の盗用の事実を報告したところ、アマゾンから侵害通知フォームから申告するよう案内されたため、やむを得ず侵害通知フォームを利用して「著作権侵害」の選択肢を選んだにすぎず、過失がないなどと主張する。

この点、一審被告が、当初、アマゾンに対し、原告サイトの商品が被告サイトの商品と重複している旨も併せて報告しようとした事実は認められるものの、侵害通知フォーム自体が知的財産権の侵害を申告するためのものであって、その他の規約違反の報告は別の方法によるべきことが明記されているのであるから、その上で侵害通知フォームにおいて「著作権侵害」を選択したことについてやむを得ないという余地はなく、むしろこの弁解からは、著作権侵害の問題になり得ないことを認識しながら、著作権侵害を申告したことを自認しているという見方さえでき、その場合、一審被告には、虚偽の事実を申告することについて過失にとどまらず未必の故意があったということになる。したがって、一審被告の上記主張は採用できない。

オ 以上によれば、一審被告による本件各申告が、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当する違法な行為であることは明らかであり、それらにつき一審被告には少なくとも過失が認められるというべきである。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/