編集著作物の著作者の権利(文集からの引用が問題となった事例)

 

▶平成17年07月01日東京地方裁判所[平成16(ワ)12242]▶平成17年11月21日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10102]

1 争点(1)(編集著作物の著作者の権利の有無)について

(1) 編集著作物は,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものをいい(著作権法12条1項),編集著作物の著作者の権利は,当該編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(同条2項)。同条は,既存の著作物を編集して完成させたにすぎない場合でも,素材の選択方法や配列方法に創作性が見られる場合には,かかる編集を行った者に編集物を構成する個々の著作物の著作権者の権利とは独立して著作権法上の保護を与えようとする趣旨に出たものである。

そうすると,編集著作物の著作者の権利が及ぶのは,あくまで編集著作物として利用された場合に限るのであって,編集物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合には,編集著作物の著作者の権利はこれに及ばないと解すべきである。

この点につき,原告らは,編集著作物を構成する個々の著作物が編集著作物の著作者の特定の思想,目的に反して第三者に利用された場合に,上記著作者が何らの手立てを取ることもできないのは不当であるなどと主張する。しかし,編集著作物はその素材の選択又は配列の創作性ゆえに著作物と認められるものであり,その著作権は著作物を一定のまとまりとして利用する場合に機能する権利にすぎず,個々の著作物の利用について問題が生じた場合には,個々の著作物の権利者が権利行使をすれば足りる。

(2) 被告書籍においては,別紙記載のとおり,本件文集中の各記載が引用されている。

そうすると,被告書籍中における本件文集の利用態様は,あくまで本件文集を構成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであって,本件文集を一定のまとまりのある編集物として利用していると見ることはできない。

したがって,原告Aが本件文集について編集著作物の著作者であるか否かにかかわらず,被告Dの引用行為が原告Aのかかる権利を侵害したと解する余地はない。

(3) 小括

よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告Aが編集著作物の著作者であることを根拠とする原告Aの請求には理由がない。

 

[控訴審同旨]

控訴人X1は,編集著作物においては,編集者の特定の思想・目的に基づく素材の選択・配列の独自性が保護されるのであり,当該編集物につき保護されるべき著作者人格権もまた,編集者の独特の思想・目的に起因するものであるから,編集著作物の部分を構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも,その利用の態様が個別の著作物のみならず,編集者の独特の思想・目的に反し又はこれを侵害するような態様ならば,編集者自身が著作者人格権に基づいて侵害を排除できる旨を主張する。

しかしながら,編集著作物は,素材の選択又は配列に創作性を有することを理由に,著作物として著作権法上の保護の対象とされるものであるから,編集者の思想・目的も素材の選択・配列に表れた限りにおいて保護されるものというべきである。したがって,編集著作物を構成する素材たる個別の著作物が利用されたにとどまる場合には,いまだ素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的が害されたとはいえないから,編集著作物の著作者が著作者人格権に基づいて当該利用行為を差し止めることはできない。

本件においては,被告書籍中における本件文集の利用態様は,あくまで本件文集を構成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであるから,素材の選択・配列に表れた編集者の思想・目的を侵害するものとはいえない。したがって,控訴人X1の主張するその余の点につき判断するまでもなく,同控訴人の編集著作物の著作者の権利に基づく請求は,理由がない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/