原著作物(シリーズ物のアニメ)の「キャラクター」をもとにした二次的著作物に基づく権利主張の信義則違反又は権利濫用が問題となった事例

 

▶令和2年10月6日知的財産高等裁判所[令和2(ネ)10018]

本件各漫画の特徴(前提事実)

本件各漫画は,次のとおりの共通の特徴を有する(ただし,本件漫画11は,特徴⑤⑥を有さない。)。

① 主要な登場人物(「主役」)は,若い男性二人である。

② 主役の名前は,いずれも,有名なシリーズものの漫画又はアニメの登場人物と同一である。本件各漫画のそれぞれに対応する漫画又はアニメ(「原著作物」)の題号を示すと,別表のとおりである。

③ 主役の顔貌及び体型は,原著作物の主役のそれと酷似している。

④ ストーリー中の人間関係や場面設定,図画中の建物や小道具等において,原著作物と同一又は類似のものがみられる(具体例を別表に示す。)。

⑤ ストーリーの中核となるのは,主役二人が性交類似行為又はこれに準じる行為をする場面である。原著作物には,そのような場面は存在しない。

⑥ 当該場面のいくつかには,男性器の形態や精液の飛散が描出されている。

⑦ 表紙又は奥付の中に,原著作物の題号又は登場人物名に言及する部分がある。

 

1 当裁判所は,一審原告の請求は原判決の認容額の限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,当審における両当事者の補充主張に対する判断を次項以下に補充するほか,原判決(東京地方裁判所平成30年(ワ)第39343号)の記載のとおりであるからこれを引用する。

2 争点5(信義則違反又は権利濫用)について

一審被告らの主張は,次のとおり,採用することができない。

⑴ 著作権侵害に関する主張について

ア 原著作物への依拠

特徴⑦によれば,本件各漫画は,原著作権に依拠して作成されたものと認定できる。

イ 著作権侵害の有無

一審被告らは,本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されている旨主張する。

しかしながら,漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない(最高裁判所平成9年7月17日第一小法廷判決)。したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。

また,原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(上記最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである(なお,一審被告らは,東京地裁昭和51年5月26日判決(判例タイムズ336号201頁)に基づいて,登場人物等に関しては,登場シーンを特定する必要はないという趣旨の主張をするが,上記最高裁判所判決に照らし,採用することはできない。)。

この観点から検討すると,一審被告らの主張のほとんどは,原著作物のどのシーンに係る著作権が侵害されたのかを特定しない主張であって,主張として不十分であるといわざるを得ない。そして,原著作物の特定のシーンと本件各漫画のシーンとを対比させた乙10の1~7(もっとも,「アニメ版」として掲げられているシーンについて,第何回のどの部分という具体的特定までがされているわけではない。)の内容を検討してみても,原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず(なお,乙10の1~7の中で,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べているのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),また,基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。

以上の次第で,一審被告らの著作権侵害の主張は,それ自体失当であるし,現在の証拠関係を前提とする限り,仮に原著作物のシーンが特定されたとしても,著作権侵害が問題となり得るのは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られるものといわざるを得ない(なお,一審被告らは,本件各漫画で描かれた各シーン(ストーリー展開に関わる部分)は,原著作物の基本的設定に関わる部分の翻案に当たり,また,同一性保持権を侵害していると主張するかもしれないが,上記基本的設定に関わる部分は,主人公等の容姿や服装などの表現そのものにその本質的特徴があるというべきであって,ストーリー展開に本質的特徴があるということはできないから,本件各漫画に描かれたストーリー展開が,上記基本的設定に関わる部分の翻案に当たると解する余地はないし,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分に変更がない以上,同一性保持権侵害が問題になる余地もない。)。

ウ 権利行使の可否

以上によれば,本件各漫画が,原著作物の著作権侵害に当たるとの主張は失当であるし,仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても,それは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであって,その他の部分については,二次的著作権が成立し得るものというべきである(なお,本件各漫画の内容に照らしてみれば,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分について,オリジナリティを認めることは十分に可能というべきである。)。

そうすると,原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん,認められる場合であっても,一審原告が,オリジナリティがあり,二次的著作権が成立し得る部分に基づき,本件各漫画の著作権侵害を主張し,損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。

⑵ わいせつ性の主張について

一審被告らは,本件各漫画はわいせつ文書に当たるから,そのような文書に基づいて権利行使をすることは許されないと主張するところ,たしかに本件各漫画(本件漫画11を除く。)は特徴⑤⑥を有するものであることが認められる。しかしながら,本件各漫画全体を検討してみても,それらが甚だしいわいせつ文書であって,これに基づく著作権侵害を主張し,損害賠償を求めることが権利の濫用に当たるとか,そのような損害賠償請求を認めることが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/