医薬品のパッケージ・ラベル・パンフレット等のデザインの作成を委託した発注者の注意義務(過失)を認定した事例

 

▶平成11年7月8日大阪地方裁判所[平成9(ワ)3805]

2 以上認定の事実に先に三1で認定した事実を併せ考慮すれば、Eが参考にした(証拠)には、F画と共に原告著作物Cが掲載されており、その頁にはF画のオリジナルは右原告著作物である旨の説明文もあるのであるから、たとえEが直接参考にしたのがF画のみであっても、右原告著作物と類似する被告図柄を作成し、使用するに当たっては、F画に関するペンタグラム社の使用許諾のみならず、右原告著作物に関する権利者の使用許諾をも得ることが必要であると気付くことは可能かつ容易であり、そのための措置を講じる注意義務があったというべきである。したがって、それにもかかわらずEは、ピーピーエス社に対し、ペンタグラム社に対する使用許諾を依頼したに過ぎず、原告に対する使用許諾については何ら措置を講じなかったのであるから、Eには過失があるというべきである。

この点について被告は、ピーピーエス社は著作権処理の専門業者であり、Eはそのピーピーエスに対して著作権の帰属の調査と使用許諾の取得について依頼し、使用許諾が得られた旨の回答を受け取ったのであるから、Eに過失はないと主張する。確かにペンタグラム社からピーピーエス社になされた回答書の内容に照らせば、GがEに対して単に使用許諾が得られた旨の連絡をしたにとどまるというのは不可解な面もあるが、そもそもEがピーピーエス社に対して依頼したのは、F画についてペンタグラム社の使用許諾を得ることのみであって、原告から使用許諾を得るための依頼はしていないのであるから、ペンタグラム社の関係で使用許諾が得られた旨の連絡を受けて、それによってすべての著作権関係の使用許諾が得られたと判断した点においてすでにEには過失があるというべきである。

3 以上を前提に、被告の過失について検討する。

(一) この点について被告は、自らは単なるデザインの発注者にすぎず、デザイナーのEが何を参考として被告図柄を作成したものかは知らなかったし、Eからは被告図柄が第三者の著作権を侵害するものではないことを確認することに加え、万一、第三者から著作権侵害を理由とする訴えが提起された場合には、すべてCグラフィスが責任を負うこととしたのであり、被告としては、これ以外に著作権に関する確認の方法を持っておらず、被告の立場においてなすべき注意はすべて尽くしたと主張する。

(二) そこで検討するに、まず、本件で被告図柄を作成したのはコア社であり、原告著作物Cの二次著作物を作成してデザイン料を得るためには、コア社自身、自らのために、原告著作物Cに関する使用許諾を得るべき立場にある。しかし、さらに、コア社が作成した被告図柄を大量に複製して使用するのは被告自身なのであるから、被告もまた、被告図柄を被告医薬品に使用するに当たって、自ら他人の著作権を侵害しないよう調査し、場合によっては使用許諾を得る措置を講じる注意義務を負っているというべきである。もちろん、被告が右注意義務を尽くすに当たっては、第三者に委託することも差し支えなく、本件ではそれがコア社に委託されていると見られるわけであるが、右に述べたところからすれば、コア社(E)が著作権侵害の有無を調査し、使用許諾を得るための措置を講じる行為は、自己の注意義務を尽くすための行為であるとともに、被告の注意義務を尽くす行為を被告から委託を受けて代行するという性質も有するものであるから、被告は、コア社(E)が右行為を行うに当たって、しかるべき注意を尽くすよう指揮・監督すべき義務があると解すべきである。

この点について被告は、コア社は外部の独立したデザイン会社であり、コア社に対して何ら指揮権や支配権を持っていないと主張するが、右に述べたところからして採用できない。

(三) しかるところ、デザイン会社がパッケージ等のデザインを行うに当たって、他人のデザインを参考にするのは一般にあり得ることであり、だからこそ被告もEに対して被告図柄が第三者の著作権を侵害することはないかとの確認をしたものと考えられるのであるが、前記認定事実によれば、被告は、わずかに右の点を簡単にEに確認したにとどまり、それ以上にEがどのようなデザインに依拠して被告図柄を作成し、どのような著作権の使用許諾手続をとったのかといった点について、何ら確認・調査していないことが認められるのであるから、被告は尽くすべき注意義務を尽くしていないといわざるを得ない。

この点について被告は、契約書において、被告図柄が第三者の著作権を侵害した場合の責任は被告が負う旨の条項があることを指摘するが、これは被告とコア社との間でのみ意味を持つにすぎず、著作権者に対する関係で注意義務が軽減されることの根拠となり得るものではない。

4 以上より、被告には、被告商品の包装箱等に被告図柄を使用して原告の著作権を侵害するについて、過失がある。

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