切り離し式の暗記カードの編集著作物性及びその侵害性が争点となった事例

 

▶平成25年11月29日東京地方裁判所[平成24(ワ)18701]▶平成26年04月22日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10009]

(2) 編集著作物の侵害について

ア 原告は,①切り離し式の暗記カード,②予想イベントとの連動,③本扉頁を省略する編集形態,④表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態を選択したとして,これらの4点において,編集著作物である旨主張する。

イ そこで検討するに,著作権法12条1項は,編集物でその素材の選択又は配列に創作性のあるものを著作物(編集著作物)として保護する旨を規定するが,これは,素材の選択・配列という知的創作活動の成果である具体的表現を保護するものであり,素材及びこれを選択・配列した結果である実在の編集物を離れて,抽象的な選択・配列方法を保護するものではないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに,原告は,上記②,③については,抽象的な選択あるいはアイデアを主張するにすぎないのであって,原告受験誌の具体的表現に基づいて主張するものではないから,上記②,③が編集著作物であるとは認められない。

ウ 次に,上記①の切り離し式の暗記カードについて,原告は,模擬試験本の4回分の予想問題を総合的に反映した重要な仕訳内容などを暗記カードの内容に反映させる独自の編集を行い,また,試験本番で特に重要な設問の第1問の解答率をアップさせるための配列としたなどと主張する。

【この点,問題とそれに対する解答を切り離し式の暗記カードの形態で掲載すること自体は,具体的表現ではなく誌面の構成や形態に関するアイデアにすぎず,これに著作権法上の保護が及ぶものではない。

次に,暗記カード上に掲載された問題とそれに対する解答の選択や配列についてみるに,控訴人は,従前の簿記検定試験の内容を踏まえた予想問題を反映した重要な仕訳内容を暗記カードの内容に反映させたというのであり,暗記カード部分に掲載された問題と解答の選択や配列には控訴人の独自性が発揮されているといえるから,少なくとも全体として一つの編集著作物に当たると認められる。】

しかし,被告第130回受験誌には暗記カードが存在しておらず,原告が編集著作権の侵害を主張する被告第131回受験誌の問題の選択,配列の内容は原告第130回受験誌及び原告第131回受験誌【と比較すると,手形の割引,自己受為替手形,預り金の処理,商品券の処理,固定資産の売却など,一部の問題のテーマに共通するものがあるが,問題の選択や配列の内容は全体としては異なるから,控訴人の主張する切り離し式の暗記カードの編集著作権について,侵害が成立しないことは明らかである。】

エ 上記④の表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態については,素材の選択,配列を主張しているものとは解されないから,編集著作物の主張として主張自体失当である。また,被告受験誌第130回は表紙の裏面は白紙であり,原告が侵害を主張する被告受験誌131回は,表紙の裏面に印字があるものの,その素材の選択,配列は原告受験誌第130回,原告受験誌第131回のいずれとも大きく異なっている。

オ したがって,その余について判断するまでもなく,被告受験誌が原告の編集著作物を侵害するとは認められない。

[控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/