「映画製作者」の該当性が争点となった事例
▶平成15年09月25日東京高等裁判所[平成15(ネ)1107]
1 原判決の判断の骨子
著作権法16条は,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定し,著作権法29条1項は,「映画の著作物(第15条1項,次項又は第3項の適用を受けるものを除く。)の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定し,
同法2条1項10号は,「映画製作者」につき,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。
原判決は,①本件テレビアニメにつき,その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当するのは被控訴人であること,②本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは,総監督を担当したEであり,Eは,映画製作者である被控訴人に対し,本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものであること,を理由として,被控訴人は,著作権法29条1項の規定により本件テレビアニメについての著作権を取得した,と判断した。
2 被控訴人の「映画製作者」該当性について
控訴人らは,本件テレビアニメにつき,その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」は被控訴人である,とした原判決の上記判断は,誤りである,と主張する。
(1) 映画の著作物の「著作権」(著作者人格権を除く。)は,「映画製作者」に帰属する,とする著作権法29条が設けられたのは,主として劇場用映画における映画会社ないしプロダクションを映画製作者として念頭に置いた上で,①従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,②映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,③映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,そのようにするのが相当であると判断されたためである(当裁判所に顕著な事実)。
「映画製作者」の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)とは,その文言と著作権法29条の上記の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである,と解すべきである。
(2) 被控訴人は,放送事業者である毎日放送との間で,本件テレビアニメの第1話ないし第21話の製作と放送について,昭和57年9月30日付けで次の内容を含む契約を締結し,昭和58年3月10日付けで,第22話ないし第36話の製作と放送について同様の契約を締結した。
(略)
(3) 上に認定した本件製作契約の契約内容によれば,毎日放送は,被控訴人に対し,本件テレビアニメの製作費用として,1話につき550万円を支払う義務を負うものとされていること,被控訴人は,毎日放送に対し,本件テレビアニメを約定の期限までに作成して納品する義務を負い,この義務に違反した場合には,損害賠償の責を負うものとされていることが明らかである。
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件テレビアニメの製作に参加してからは,製作作業をしたアニメフレンド,控訴人スタジN,アートランド等に対し,製作作業に対する報酬を支払っていた(アニメフレンド以外の者に対しては,アニメフレンドを通じて支払っていた。)ことが認められる。
上に述べたところによれば,被控訴人は,本件テレビアニメの製作意思の下に,毎日放送に対し,本件テレビアニメを製作する法律上の義務を負っており,かつ,本件テレビアニメの製作を行う法的主体として製作に関する収入・支出を被控訴人の計算において行っているということができるから,本件テレビアニメの「製作につき発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当すると認めるのが相当である。
3 控訴人らの主張について
(1) 「製作主体」の主張について
控訴人らは,控訴人Bの前の代表者であったAが,本件テレビアニメにつき,製作費を調達し,放送枠を確保し,アニメーション化作業を行うプロダクションを選定してテレビアニメ化を進めた行為を行ったことを根拠に,控訴人Bが,本件テレビアニメの「製作主体」であって,「映画製作者」に当たると解すべきである,と主張する。
しかしながら,本件テレビアニメの「製作主体」であるか否かは,その製作意思を有するか否か,その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か,製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として,製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであることは前述のとおりである。このことを離れて,「製作主体」か否かを論じることは意味のないことである。
(2) 「発意」の主張について
控訴人らは,「発意」の点について,控訴人スタジオNからの働きかけを受けて,本件テレビアニメを完成させようとしてスポンサー探しや放送枠の獲得のために奔走し,アニメーションの製作について被控訴人に参加するよう働きかけをした控訴人Bが「発意」し,そこに,アニメ製作会社である被控訴人が「参加」しているとみるべきである,と主張する。
前記原判決引用に係る認定事実によれば,控訴人Bが控訴人スタジオNの働きかけを受けて本件テレビアニメを完成させようとして,スポンサー探しや放送枠の獲得をし,アニメーションの製作について被控訴人に参加を働きかけたことは,控訴人らの主張のとおりであり,本件テレビアニメの企画を最初に立案したのは控訴人スタジオNないし控訴人Bであるということができる。
しかしながら,映画の製作に「発意」を有すると認められるのは,最初にその映画を自ら企画,立案した場合に限られると解すべき理由はなく,他人からの働きかけを受けて製作意思を有するに至った場合もこれに含まれると解するのが相当である。被控訴人は,最初に本件テレビアニメの企画を立案した者ではないものの,控訴人Bからの働きかけに基づいて,毎日放送に対し,本件テレビアニメの製作義務を負うことを内容とする上記契約を締結することにより,本件テレビアニメの製作意思を有するに至ったものであるということができる。この意味において,被控訴人が本件テレビアニメの製作に「発意」を有するということができることは,明らかである。
(略)
(5) 控訴人らの主張は,要するに,控訴人Bが,控訴人スタジオNの企画を取り上げ,本件テレビアニメの製作を実現するために,広告主と交渉して広告費の支払を了承させ,毎日放送と交渉して本件テレビアニメの放映を約束させ,控訴人B自身が毎日放送に対し放映料の支払義務を負う旨の契約を締結し,放映料支払義務の担保として保証金を毎日放送に提供するという一連の行為を行ったからこそ,被控訴人と毎日放送との間で本件製作契約が締結され,本件テレビアニメの製作及び放映が実現したのであるから,このような重要な役割を果たした控訴人Bにこそ本件テレビアニメの著作権を認めるべきである,ということに帰する。
控訴人Bが本件テレビアニメの製作及び放映を実現するについて,重要な役割を果たしたことは,控訴人らの主張するとおりである。しかしながら,映画の著作権の帰属主体である「映画製作者」の要件である「映画の製作につき責任を有する者」に該当するか否かは,その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か,製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として,製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであること,このような法律上の権利義務の主体となるのは本件製作契約の当事者である被控訴人であり,控訴人Bが本件テレビアニメの製作について法律上の権利義務の主体となることはないことは,前に述べたとおりである。控訴人Bが本件テレビアニメの製作,放映について果たした役割は,本件テレビアニメの製作の責任主体との関係でいえば,結局のところ,本件製作契約の成立という形で,本件テレビアニメを製作すること,及び,その製作の責任の主体を被控訴人とすることが確定するに至るまでのいきさつにおけるものであるにすぎない,とみるほかなく,そのことによって,控訴人Bが本件製作契約締結後において映画の製作につき責任を有する映画製作者に当たると認めることはできないというべきである。