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「映画の著作物」に該当するための要件

 

▶昭和59年09月28日東京地方裁判所[昭和56(ワ)8371]

1 著作権法は、著作物の一類型として「映画の著作物」を掲げ(第10条第1項第7号)、この類型の著作物については、他の類型の著作物と異なり、特に、「上映権」及び「頒布権」を認め(第26条)、著作権の帰属(第29条)、保護期間(第54条)等について特則をおいている。そして、この「映画の著作物」には、本来的意味における「映画」のほかに、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を含むものとされている(第2条第3項)。「パツクマン」が本来的意味における映画に該当しないことは明らかであるから、以下、右の定義規定の解釈について、右の特則の立法趣旨等も勘案しながら、本件に必要な範囲で判断を示す。

2 前記定義規定によれば、本来的意味における映画以外のものが「映画の著作物」に該当するための要件は、次のとおりである。

(一)映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること

(二)物に固定されていること

(三)著作物であること

「著作物」については、更に定義規定がある(第2条第1項第1号)から、右(三)の要件は、次のとおり言い換えることができる。

(三)′思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること

右のうち、(一)は表現方法の要件、(二)は存在形式の要件、(三)は内容の要件であるということができる。

3 表現方法

表現方法の要件は、前記(一)のとおりであるが、そこでは、「視覚的又は視聴覚的効果」とされているから、聴覚的効果を生じさせることすなわち音声を有することは、映画の著作物の必要的要件ではなく、視覚的効果を生じさせることが必要的要件であると解される。

映画の視覚的効果は、映写される影像が動きをもつて見えるという効果であると解することができる。右の影像は、本来的意味における映画の場合は、通常スクリーン上に顕出されるが、著作権法は「上映」について「映写幕その他の物」に映写することをいうとしている(第2条第1項第19号)から、スクリーン以外の物、例えばブラウン管上に影像が顕出されるものも、許容される。したがつて、映画の著作物の表現方法の要件としては、「影像が動きをもつて見えるという効果を生じさせること」が必須であり、これに音声を伴つても伴わなくてもよいということになる。

本来的意味における映画は、映画フイルムに固定された多数の影像をスクリーン上に非常に短い時間間隔で引続いて連続的に投影する方法により、人間の視覚における残像を利用して、影像が切れ目なく連続して変化しているように見せかけることによつて、右の「影像が動きをもつて見える効果」を生じさせるものであるから、映画以外の映画の著作物においても、物に固定された影像を非常に短い時間の単位で連続的にブラウン管上等に投影する方法により、右の効果を生じさせることが予想されているものと解することができる。

右に述べた要件は、映画から生じるところの各種の効果の中から、「視覚的効果」と「視聴覚的効果」とに着目し、そのうち特に「視覚的効果」につき、これに類似する効果を生じさせる表現方法を必須のものとしたものであるから、「映画の著作物」は本来的意味における映画から生じるその他の効果について類似しているものである必要はないものと解される。

したがつて、現在の劇場用映画は通常観賞の用に供され、物語性を有しているが、これらはいずれも「視覚的効果」とは関係がないから、観賞ではなく遊戯の用に供されるものであつても、また、物語性のない記録的映画、実用的映画などであつても、映画としての表現方法の要件を欠くことにはならない。

なお、本来的意味における映画の影像は、現在のところ、視聴者の操作により変化させることはできないが、影像を視聴者が操作により変化させうることは、「視覚的効果」というべきものではないから、この点は、表現方法の要件としては考慮する必要がないものと解される。

4 存在形式

映画の著作物は「物に固定されていること」が必要である。

「物」は限定されていないから、映画のように映画フイルムに固定されていても、ビデオソフトのように磁気テープ等に固定されていてもよく、更に、他の物に固定されていてもよいと解される。

また、固定の仕方も限定されていないから、映画フイルム上に連続する可視的な写真として固定されていても、ビデオテープ等の上に影像を生ずる電気的な信号を発生できる形で磁気的に固定されていてもよく、更に、他の方法で固定されていてもよいと解される。一般に著作物においては、物に固定されていることが要件とされていないから、原稿のない講演や楽譜のない音楽のように、一過性のものでも著作物たりうるが、映画の著作物においては、テレビの生放送のように、一過性のものはこれに含まれないものとするために、物に固定されていることが要件とされているものと解される。したがつて、物に固定されているとは、著作物が、何らかの方法により物と結びつくことによつて、同一性を保ちながら存続しかつ著作物を再現することが可能である状態を指すものということができる。

5 内容

(一)内容の要件は、更に次の二つに分けて考えることができる。

(1)思想又は感情を創作的に表現したものであること

(2)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること

(二)右(1)の要件のうち、「思想又は感情」は、厳格な意味で用いられているのではなく、およそ思想も感情も皆無であるものは除くといつた程度の意味で用いられているものであつて、人間の精神活動全般を指すものであると解するのが相当である。したがつて、「思想」と「感情」の区別も特に問題とする必要がないといえる。

また、「創作性」については、いわゆる完全なる無から有を生じさせるといつた厳格な意味での独創性とは異なり、著作物の外部的表現形式に著作者の個性が現われていればそれで十分であると考えられる。

(三)前記(2)の要件のうち、「文芸、学術、美術又は音楽」というのも、厳格に区分けして用いられているのではなく、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものであると解するのが相当で、該著作物がどの分野に属するかを確定する実益はない。

なお、知的、文化的精神活動の所産といいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは、必ずしも関係がないというべきである。すなわち、創作されたものが、芸術作品として鑑賞されようと、学究目的で利用されようと、全くの娯楽目的で利用されようと実用目的で利用されようと、また、本件に即していえば、遊戯目的で利用されようと、そのことは、著作物性に影響を与えるものではないと解するのが相当である。

6 次に、映画の著作物には、特に上映権と頒布権が認められているが、このことから、映画の著作物の範囲について何らかの限定をしなければならないかどうかについて検討する。

映画の著作物について特に上映権と頒布権が認められている立法趣旨は、主として、劇場用映画のフイルム配給の実態を保護するためであるといわれている。しかし、著作権法は、劇場用映画に限り上映権等を認めているわけではなく、広く映画の著作物全般についてこれらを認めているから、劇場用映画でない映画の著作物、例えば市販されているビデオ・カセツトや16ミリフイルムに収録されている映画、家庭内で撮影されたビデオテープや8ミリフイルムでその内容が著作物性を有するものについても、上映権等が認められているものと解するほかはない。

そして、少なくとも、市販の16ミリフイルムに収録された映画や家庭内で撮影された8ミリフイルムでその内容が著作物性を有するものが立法当時広く存在していたことは明らかであるから、著作権法が映画の著作物全般にわたり上映権等を認めたことは、前記の立法趣旨だけでは充分に説明し切れないものである。しかしながら、立法の動機がどのようなものであつたにせよ、著作権法が、劇場映画とは全く取引実態を異にするものであつても、映画の著作物に該当する以上、上映権等を認めるとの立場をとつたものと解すべきであることが明らかであり、取引実態が異なることを理由に上映権等を制限したり、映画の著作物に該当しないものとしたりすることは、現行法の解釈としては採用できないというべきである。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/