写真集の著作者(編集著作者)が誰かが争点となった事例

 

▶平成19年1月31日横浜地方裁判所[平成16(ワ)3460]▶平成19年07月25日知的財産高等裁判所[平成19(ネ)10022]

原告が本件写真集の著作者であるかどうかについて

ア 著作者とは,著作物を創作する者,すなわち,当該著作物について,その者の思想又は感情を創作的に表現する活動をした者である(著作権法2条1項1号,2号)。

イ 原告は,本件写真集の著作者は原告である旨主張している。

(ア) しかし, 本件写真集に掲載されている写真を撮影したのはAであり,撮影行為自体について原告が特段の指示をした等の事情は認められない。また,本件写真集の編集について原告に特段の関与があったと認めるべき証拠もない。以下,原告の指摘する点について順次検討する。

(イ) まず,原告は本件写真集に掲載する人形を選定した旨主張する。

しかし,本件写真集は,前記のとおり,被告及びBが原告から購入し, 手許にあった人形を撮影したものである。そして, 証拠によれば,本件写真集には,原告がごく初期に制作した作品は含まれていないが,その後原告が制作していた作品の大部分が掲載されているものと認められ,特に原告が取捨,選択したというほどの事情は認められない。

【すなわち,前記の認定事実によれば,本件写真集に掲載された本件各人形の写真の撮影は,約20日間にわたって,Aによって行われたが,控訴人は,撮影に1回立ち会っただけであり,構図,カメラアングル,照明,絞り・シャッター速度等の写真撮影に対して意見を述べたり,希望を出したことはなかった。もっとも,控訴人は,上記撮影に立ち会った際,本件各人形の姿勢を修正したことがあるが,これは,Aらが,控訴人の制作した人形作品について,撮影のため設置した姿勢に誤りがある点を指摘して,正したものにすぎない。以上のとおり,控訴人は,本件写真集に掲載された本件各人形の写真の撮影行為を行ったものではないことはもとより,その撮影方法について特段の指示・要請等をしたものでもないから,控訴人が上記写真の著作者であると認めることはできない。】

(ウ) 次に,原告は,平成13年3月6日の打合せの際等に,表紙に「飛行少年」という作品,巻頭には「King」という作品を掲載することや,本件各人形を作品のテーマごとに「飛行家たち 「スポーツマン 「サンタクロースたち」「カップル,恋心」「カウボーイたち」の各グループに分けて並べていくことを提案したと主張する。

確かに,原告は上記のように供述し,本件写真集は, 上記主張のように制作されているとはいえるが,仮に,これが原告の主張するように,その提案に基づくものであったとしても,それだけで原告が本件写真集の著作者ということは困難である。すなわち,本件写真集の創作活動の中心は,人形の写真を撮影し,多くの写真の中から掲載する写真を選別し,これらを具体的に配置,配列していく点にあるのであって,このような観点からみると,原告はこれらの活動に何ら参加しているわけではない。【さらに詳述すれば,①前記認定のとおり,控訴人は,本件写真集に掲載する写真の選択,配列,レイアウト,写真以外の掲載記事を含む本件写真集全体の構成・内容等の打合せに参加したことはなく,また,②控訴人は,本件写真集のゲラ刷りの確認をし,裏焼き等の写真があることを指摘し,写真の差替え又は再撮影の要請をし,その要請を受けて裏焼き写真の一部が差し替えられたことがあったが,控訴人のこれらの行為は,明らかな誤りを指摘したものにすぎず,確認ないし校正作業の域を出るものではない(控訴人は,本件写真集のゲラ刷りにつき,本件各人形の作品名の誤記を指摘し,修正するよう要請をしているが,この指摘・要請も確認ないし校正作業の域を出るものではない。)。これらの事実経緯に照らすならば,控訴人が,本件写真集の掲載写真について作品のテーマごとにグループ分けして配列することなどを提案した点は,アイデアの提供あるいは助言にすぎないというべきであり,控訴人の行為をもって,Aらによって撮影された本件各人形の相当数の写真の中から本件写真集に掲載された写真を取捨選択し,選択した写真の配列,レイアウト等を決定し,本件各人形の写真の選択及びその配列をしたという,創作的な表現活動であると評価することはできない。】

(エ) また,原告は,本件写真集の題名を決定したと主張している。

しかし,原告本人尋問においては,平成13年3月6日の打合せにおいて,原告から人形作品のテーマである「夢と遊び心」から題名を作っていこうと提案したと供述するものの, 「夢の旅」ないし「DREAM JOURNEY」という題名は話合いの中で決定されたようにうかがわれ,必ずしも原告が単独で題名を決定したとは認められない。また,いずれにしても,写真集の題名を発案,決定することは著作物自体の創作とは異なるから,これに関与したということだけでは本件写真集を創作したということはできない。

なお,本件写真集の謝辞部分は,原告が作成した文章であるから,この文章の著作者は原告といえるが,上述したように原告が他の部分を創作したとは認め難い以上は,この部分と他の部分は別の著作物と解されるから,このことをもって原告が本件写真集全体の著作者ということはできない。

(オ) 原告は,本件写真集は, 「DREAM JOURNEY The Art of Leather Dolls X 夢の旅 Xの世界」と題され,最初の数頁には「This book made possible by B and Y」と記載された頁,「The Art of Leather Dolls DREAM JOURNEY /X/ PHOTOGRAPHY BY A」と記載された頁等があり,これらの記載は,本件写真集が当初から著作権を原告に帰属させるものとして制作,出版がされたものであることを示していると主張する。

確かに,上記のような記載からは,本件写真集は,原告が著作者であるような外形を有しているということが可能であるが,著作者がだれかという問題は,現実に当該作品を著作した者がだれかということによって決せられるべきものであって,上記のような本件写真集の外形だけから著作者がだれかを判断することはできないというべきである。

【(カ) 小括

以上のとおり,控訴人は,本件写真集に掲載された各写真の撮影をすることもなく,また,撮影に創作的に関与したものではないから,各写真に係る著作権を取得することはない。また,本件写真集が,独立の著作物,編集著作物又は二次的著作物のいずれかに該当するか否かはさておいて,控訴人は,本件写真集の制作に当たって,当該写真集に掲載した素材の選択又は配列などの創作的な表現に関与したと評価することはできないから,控訴人が,本件写真集に係る著作権を取得することはない。

(キ) 控訴人の当審における補充主張に対する判断

控訴人は,本件写真集は,控訴人が製作した本件各人形に込めた「夢と遊び心」という思想表現を写真という形態に移し変えて表現することを目的としたもので,本件作品集に掲載された写真自体は,被写体である原著作物(本件各人形)と原著作者である控訴人が作成した本件文章(謝辞等)による思想表現を超える独自の創作性を付与するものではないから,本件写真集の著作権は,控訴人に帰属すると主張する。

しかし,控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。

前記の認定事実によれば,本件写真集に掲載された本件各人形の写真は,本件各人形の形状・色彩等をただ単に写真の形式を借りて平面的に改めたものではなく,Aらにおいて,被写体として選択した本件各人形ごとに構図,カメラアングル,背景,照明等の組合せを選択,調整するなど,さまざまなアイデア,工夫を凝らして撮影し,作品として完成したものであり,正に,撮影者であるAらの思想又は感情を創作的に表現したものであるから,二次的著作物としての創作性が認められることに疑いを入れる余地はない。

控訴人は,上記掲載写真自体は,本件各人形と控訴人作成の本件文章による思想表現を超える独自の創作性を付与するものではないと主張するが,独自の理論を前提とするものであって,採用の限りでない。】

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