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ワイナリーの案内看板(図柄)の著作物性が否定された事例

 

▶平成25年06月05日東京地方裁判所[平成24(ワ)9468]▶平成25年12月17日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10057]

1 争点(1)(Eコースにおける著作権侵害の成否)

(1) 本件図柄の著作物性

ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想又は感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの,又は表現が平凡かつありふれたものであるなどの理由により,表現上の創作性がないものについては著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。そして,当該作品等が,「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味で作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。

イ そこで,本件図柄について,上記意味における創作性の有無について検討するに,本件図柄は,【濃紺】の横長の長方形の中に,縦横の長さがそれぞれその3分の2程度を占める大きさの白色のグラスを配置し,上記グラスのボウル内に,背景色と同色で,「シャトー勝沼」の文字を上下二段に分けて横書きし,さらに,グラス上方に,「シャトー勝沼」よりもやや小さい黄色の丸ゴシック文字で,アーチ状に「ワイナリー/工場見学」の文字を横書きしたものである。

ウ 本件図柄は,上記のとおり,背景色の中に,白色のグラスを大きく配置したものであるが,本件図柄が,被告の運営するワイナリー等への案内看板の図柄として制作されたものであることを考慮すれば,その図柄にグラスの形状を採用することはありふれたものというべきである。また,上記グラスの形状は,通常のワイングラスよりもプレート部分がやや大きく,軸が短いものであるということができるが,上記形状は,グラスとして通常見られるものの域を出るものではないというべきであって,このような点に,作成者の個性の表出は認められない。

また,本件図柄は,上記のとおり,グラスのボウル内に「シャトー勝沼」の文字を上下二段に分けて横書きで配置し,グラスの上方に,アーチ状に「ワイナリー/工場見学」の文字を配置したものであり,これらの文字は,見やすく分かりやすいよう配置され,表示されているものということができる。しかし,本件図柄の案内看板としての性質上,本件図柄の中に,被告の社名である「シャトー勝沼」の文字や,「ワイナリー/工場見学」の文字を含むことは当然のことであり,これらを見やすく,分かりやすい位置に配置することも,その性質から当然に要求されるものというべきである。また,文字をグラスのボウル内に配置することや,アーチ状に配置することもありふれたものであり,作成者の個性の表出を感じられるものではない。そうすると,上記文字の配置・表示は,案内看板における文字の配置・表示としてありふれたものというべきであり,創作性は認められない。

なお,上記文字のうち,「シャトー勝沼」部分は,文字の太さや端部の形状に変化を持たせた,毛筆体に近い書体で描かれているものであるということができる。しかし,文字は情報伝達という実用的機能を有することをその本質というべきものであるから,文字の書体に著作物としての保護を与えるべき創作性を認めることは一般的には困難であり,当該書体のデザイン的要素が,見る者に特別な美的感興を呼び起こすに足りる程度の美的創作性を備えているような例外的場合に限り,創作性を認め得るにとどまるものというべきところ,本件図柄における「シャトー勝沼」の文字が,上記程度の美的創作性を有するものとは認められない。また,上記文字のうち,「ワイナリー/工場見学」部分は,丸ゴシック体で描かれているものであり,上記程度の美的創作性を認めることのできないものであることは明らかである。【毛筆体に近い書体と丸ゴシック体の組合せについても,特別な美的感興を呼び起こすような美的創作性を認めることはできない。】

さらに,本件図柄の配色(【濃紺】,白,黄色)については,【補色に近い色を対比して配置することで遠方から見た際に彩度が強調されることから,】他の看板にも見られるものであり,ありふれたものというべきである上,本件図柄が被告の案内看板に採用される以前の被告看板においても,同様の配色が採用されていたことが認められるのであって,上記配色が,本件図柄の作成に当たり新たに創作されたものとも認められない。

【そして,以上のような文字部分を含めた本件図柄の構図,デザイン,配色,全体のバランスを総合的に見ても,特別な美的感興を呼び起こすような美的創作性を認めることはできないことに変わりない。】

エ 原告は,本件図柄は全体として美術性を有し,美術の著作物に該当するとも主張する。しかし,本件図柄におけるグラスや文字の配置,色の選択,字体の選択等の各要素を全体として見ても,本件図柄が,全体として一つのまとまりのある絵画的な表現物として,見る者に特別な美的感興を呼び起こすに足りるだけの美的創作性があるものとは認められず,また,その構成において作者の個性が表れているものとも認められない。

したがって,本件図柄に美術の著作物としての創作性を認めることはできない。

 

[控訴審同旨]

2 控訴人の当審における主張に対する判断

(1) 本件図柄の著作物性について

控訴人は,本件図柄を一体として鑑賞した場合,本件図柄における文字は,思想,感情を表現するものとして,絵柄に融合しており,絵柄の美術性に含まれているし,本件図柄は,画面いっぱいに,大胆にグラスを描き,構図的バランスは,ずしりと重量感を与え,色彩感覚豊かで美的に表現され,見る人の心を惹きつけてやまないのであって,ありふれた平凡な絵柄ではなく,美術性と創作性を兼ね備えていると主張する。

本件図柄は,あくまでも広告看板用のものであり,実用に供され,あるいは,産業上利用される応用美術の範ちゅうに属するというべきものであるところ,応用美術であることから当然に著作物性が否定されるものではないが,応用美術に著作物性を認めるためには,客観的外形的に観察して見る者の審美的要素に働きかける創作性があり,純粋美術と同視し得る程度のものでなければならないと解するのが相当である。かかる観点から見ると,本件図柄のグラスの形状には,通常のワイングラスと比べて足の長さが短いといった特徴も認められるものの,それ以外にグラスとしての個性的な表現は見出せない。また,ワイナリーの広告としてワイングラス自体が用いられること自体は珍しいものではない上に,図柄が看板の大部分を占めている点も,ワイナリーの広告としてありふれた表現にすぎない。そして,本件図柄を全体的に観察すると,上記ワイングラスの大きさや形状に加えて,控訴人の商号及びワイナリーや工場の見学の勧誘文言が目立つような文字の配置と配色がなされていることが特徴的であるが,これも,一般的な道路看板に用いられているようなありふれた青系統の色と補色に近い黄色ないし白色のコントラストがなされているにとどまる。そうすると,本件図柄には色彩選択の点や文字のアーチ状の配置など控訴人なりの感性に基づく一定の工夫が看取されるとはいえ,見る者にとっては宣伝広告の領域を超えるものではなく,純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを肯定することは困難である。控訴人が著作物性の根拠として強調する点は,宣伝広告の効果を向上させるための工夫とも共通するものであって,必ずしも芸術性を高めるものではなく,また,現代における芸術分野の区分の流動化が認められるとしても,上記に判示した純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを否定した判断を左右するものではない。したがって,本件図柄には著作物性は認められないというべきであり,その帰属について判断する必要もない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/