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歴史小説の翻案(侵害性)

 

▶平成28年6月29日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10042]

(シークエンスの翻案について)

ア 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらないというべきである(最1小判平成13年6月28日参照)。

したがって,歴史上の事実や歴史上の人物に関する事実は,単なる事実にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないというべきである。他方,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,事実の選択,配列や,歴史上の位置付け等が著作物の表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。

イ 本件において,控訴人は,原告各小説の各ストーリーを構成する個々の出来事の選択とその配列の仕方に創作性があると主張し,各ストーリーを構成する出来事に5つのWが備わっていれば,それを複数選択し,配列したものには,創作性があると主張する。

しかし,原告各小説は歴史を題材とした小説であるから,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列しただけでは,歴史上の事実等の経過を示したものにすぎないこと,あるいは,これらの事実等についての見解や歴史観を示すものにすぎないことがあるから,常に著作権法の保護の対象となるとはいえない。控訴人主張に係る各ストーリーに創作性があり,事実の選択や配列が表現上の本質的特徴を基礎付けるというためには,5つのWを備えた出来事を複数組み合わせて配列することだけでは足りず,少なくとも,事実の選択や配列に創作性が発揮されているといえなければならない。

(略)

(人物設定の翻案について)

上記のとおり,歴史上の事実や歴史上の実在の人物に関する記述は,単なる事実の羅列にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないといえる。他方,歴史上の事実等に関する記述であっても,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,事実の選択,配列や,歴史上の位置付け等が,表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。

この点について,控訴人は,著作権法で保護する人物設定であるためには,登場人物に,具体的な「性格,思想,道徳,経済観念,経歴,境遇,容姿等」を与えればよいのであって,原告小説2の6人の登場人物についての人物設定はいずれも,かかる要件を満たすから,著作権法で保護されるべきものである,と主張する。

しかし,原告小説2の6人の登場人物は,いずれも歴史上の実在の人物であり,具体的な「性格」等を与えるだけでは,単なる歴史上の事実か,歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないから,著作権法の保護の対象となるとはいえない。

他方,人物設定に関する記述であっても,人物設定をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が肯定されることがあり,歴史上の位置付け等が表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。

(略)

(エピソードの翻案について)

上記記載のとおり,歴史上の事実や歴史上の実在の人物に関する記述は,単なる事実の羅列にすぎないから,著作権法の保護の対象とならず,また,歴史上の事実等についての見解や歴史観といったものも,それ自体は思想又はアイデアであるから,同様に著作権法の保護の対象とはならないといえる。他方,歴史上の事実等に関する記述であっても,歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては,著作物性が認められることがあり,事実の選択,配列や,歴史上の位置付け等が,表現上の本質的特徴を基礎付ける場合があり得るといえる。

この点について,控訴人は,控訴人が主張する原告各小説の各エピソードは,5つのWを備えた個々の行動や出来事を複数組み合わせたものであるから,翻案権の保護範囲であるストーリーである,と主張する。

しかし,原告各小説は歴史小説であるから,個々の行動や出来事を複数組み合わせたというだけであれば,単なる歴史上の事実や,歴史上の事実等についての見解や歴史観にすぎないこともあるから,それのみで著作権法の保護の対象となるとはいえない。歴史上の事実又はそれについての見解や歴史観が,具体的記述において創作的に表現されたものであるか否かを,その事実の選択や配列,あるいは,歴史上の位置付け等を踏まえて検討する必要がある。

 

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